発症4日目 捨て駒にされたくない
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御披露目の前に次席魔導士、宰相、近衛師団の団長が集まった会議室で事前打ち合わせを行うらしい。
筆頭魔導士のアルフレッドは体調不良でお休みだそうだ。まああれだけ飛沫を浴びていれば、コロナウイルス感染確実だ。毒性の弱いオミクロン株だから大事無いと思いたいところだ。
次席魔導士の咳払いが気になる。宰相は時折くしゃみをかみ殺しているし、近衛師団の団長も鼻をぐずぐずしている。
「失礼。昨夜から徹夜で会議を行っておりましてな。風邪を引いてしまったようだわい。」
出迎えてくれた宰相と握手を行う。後でしっかりと洗っておこう。
筆頭魔導士のアルフレッドを含め、俺の今後を話し合っていたという。顔を突き合わせて喧々囂々とやりあったらしい。アルフレッドの濃厚接触者だ。
「今後と言われますと教育期間のことですよね。何か事態が変わってきたのですか?」
剣や魔法に特化したスキルを持っていなかった俺は約1ヶ月掛けて、教育の方向性を見定めると聞いていた。
「貴殿の潤沢な経験から即戦力として投入したいとの申し込みが相継いでいましてな。」
「経験って・・・誰がそんなことを。」
聞こえの良い言葉を並べ立ているが、禄な教育も与えられず過酷な戦場に送られる。それでは体のいい捨て駒だ。
平和な日本に住んでいたのだ戦場の経験などあるはずもない。しかも異世界へ来たばかりでようやく昨日魔法に触れたばかりの俺に何を期待できるというのだ。
「貴殿の年齢ならば一個師団を率いてもおかしくはあるまいと話題に上っておってな。それに3年掛けて教育したとして活躍できるのは数年という意見もでておったのだよ。」
年齢がネックらしい。数人なら部下も持ったことはあるが、生き死にに関わる兵士たちを何百、何千と預かるなんて荷が重いとしか言いようがない。
「もしかして、こちらの人間の寿命は60歳くらいなんですか?」
日本では50代なんて人生の半分といったところだが、この世界では違うらしい。江戸時代レベルとすれば60歳でも長生きだ。
「そうじゃよ。だから得意分野で短い期間活躍していただき、悠々自適な老後を送っていただく。そう悪い話じゃあるまい。」
それだけの器量があればの話だ。起業したことも無ければ、大企業で管理職を経験したわけでもない一般サラリーマンの俺では有り得ない選択肢だ。
「それは本決まりなんですか?」
俺の世代は社会の流れに翻弄されてきた。入社直後のバブル崩壊で会社が潰れ、大学に入り直し安定した収入を得られ30代最後の歳に結婚まで行き着くもリーマンショックで会社をクビに。それでもなんとか派遣で再就職するもコロナ禍だ。
コロナはコロナで基礎疾患持ちの50代という危ない橋を渡り続け、ようやくワクチンの順番が回ってきたと思えば、大規模接種で下の世代に追い抜かされる。しかも第7波でワクチン未接種者に大量の重症者が現れたタイミングでコロナの陽性だ。生きた心地がしなかった。