発症3日目 魔法を勉強します
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その日は王宮に与えられた一室で過ごすことを許された。明日からはこの国の貴族に御披露目されるという。まだ発症4日目。身体の中ではコロナウイルスが増え続けているはずだ。
簡単な食事を摂り、ベッドに入る。部屋の中では侍女が付きっきりで世話してくれた。完全に濃厚接触者だ。
『灯り』と唱えるとベッド脇に備え付けられた燭台に灯りが点る。これは日常魔法と言って魔法に適性があれば誰でも使える魔法だという。日常生活で必要な魔法を幾つか侍女から教えて貰ったのだ。
その灯りの下で一冊の本を開く。筆頭魔導士アルフレッドが置いていったものだ。そこには闇魔法を除く、魔法が体系的に記述されている。
闇魔法は国家機密扱いらしい。ざっと見回したところ、召喚魔法が載って無いことから召喚魔法や元の世界に戻れる魔法は闇魔法のジャンルなのだろう。
レベルアップ後に貰えるスキルポイントを闇魔法に割り振れば、元の世界に戻れる可能性がある。だが俺は元の世界に戻れない。コロナの療養中に現代世界から消えた俺は犯罪者だ。刑期こそ5年未満で実際に懲役刑の判決を受けた感染者は居ないが、療養中に逃げ出した感染者としてメディアで指名手配され、社会的に抹殺されてしまうのだ。
失踪宣告から7年で死亡扱いとなる。残された家族のためにも元の世界には戻らないほうが良いだろう。
聖魔法には部位欠損の治療やHP回復、状態異常回復といった治療魔法やアンテッドに対する防御や攻撃魔法が並んでいる。死んだものを生き返らせる蘇生系の魔法は無いらしい。
火魔法は純粋に火力。どれもこれも攻撃魔法の説明が記載されている。水魔法はやや防御魔法寄りで、風魔法は肉体強化魔法、木魔法は植物を育て、土魔法は公共工事とテンプレ感満載だ。
魔法の使い方もイメージを固めて呪文を唱えるだけの簡単なもので、体内で魔力を循環させるような修行を行う必要が無いのは助かる。
『微風』、燭台の灯りが微かに揺れる。『弱風』、燭台の灯りが一瞬消えるが再び燃え上がる。『強風』、燭台の灯りが消える。
といった具合だ。『灯り』を再び唱え、燭台を燃え上がらせる。部屋の中で練習出来るのは風魔法くらいだ。
次はイメージを鍛え上げる。燭台の灯りの中心にある針に糸を通すイメージだ。『微風』、灯りの炎に穴が開くが一瞬欠けるだけ。『微風』『微風』『微風』、何度も繰り返すうちに燭台の芯に寄っていき、一瞬だけ炎が消えた。
『耐性菌』スキルでコロナウイルスの毒性をデルタ株並み、感染力をオミクロン株並みの変異株を生成する。くしゃみをすると一瞬にして部屋中に拡散した。拡散したウイルスはスーパーコンピューターで可視化したかのように浮遊しているのが見える。
その一部をそっと吸い込み『免疫抗体』スキルを使う。『創薬』スキルを使うとmRNAの仕組みをイメージしたからか注射器が出て来た。
『微風』『弱風』『強風』、可視化されたコロナウイルスがイメージ通り、壁に貼り付く。これでもっと毒性を上げれば、コロナウイルスを遅効型の生物兵器として利用出来そうだ。