97話 小さくなっちゃった・その1
カナデ、タニアは六歳くらいに。
ソラとルナは四歳くらい。
ニーナは二歳くらい。
ティナは八歳くらいで、でも、幽霊のままで体が透けていた。
「ど、どういうことだ……?」
「あっ、レインだー! わーい!」
「ぐは!?」
小さなカナデに思い切り飛びつかれてしまう。
小さくなっていうからパワーダウンしているものの、それでも猫霊族の力は侮れない。
猪の突進を食らったような感じで、思わず膝をついてしまう。
「こら、レイン。あたしとも遊びなさいよ!」
「ま、待った、これは遊んでいるわけじゃなくて……ぐあ!?」
今度はタニアに突撃されてしまう。
わざとじゃないよな……?
「っていうか、待った。なんでこんなことに……?」
「なんのことですか?」
「レイン、どうしたの?」
ソラとルナが不思議そうな顔をする。
というか、ルナの口調が普通だ。
これくらい小さな頃は普通だったのだろうか?
意外な発見だ。
「あうー……うー」
「よーしよし、ニーナはええ子やなー」
赤ちゃんサイズになったニーナを、同じく縮んだティナが念動力であやしていた。
そんなティナは、小さいながらも年上の貫禄というものが感じられる。
もしかしたらティナならこの状況を説明できるかもしれない。
「なあ、ティナ」
「なんやー?」
「これ……どういう状況なんだ?」
「あははー、ウチもようわからんなー。でも、たぶん、その壺が関係してると思うで」
「壺?」
ティナの視線を追いかけると、キッチンの脇に壺が置かれていた。
あの壺は……そう、ナタリーさんにもらったものだ。
冒険者ギルドの倉庫の整理をしていたら、この壺が出てきたらしい。
特に所有者がいるわけでもないので、お世話になっているから、とプレゼントされたのだ。
確かに綺麗な壺なので、せっかくだからもらうことにしたんだけど……
まさか、この壺のせいでみんなが小さくなった?
「呪いの壺? いや、でもそんな悪い感じはしなかった……なにかしらの魔法が閉じ込められていた?」
ダメだ。
考えてもわからない。
ひとまず、ナタリーさんに相談しよう。
それから、その道の専門家がいれば……
「えっ!? ちょ、ちょっとレイン、あたしたちをおいていくの……?」
タニアが泣きそうな顔で言う。
それは、たちまちみんなに伝染して……
「にゃー……レイン、またおでかけするの? あそべないの?」
「レイン、あそぼ? わたしと遊んでほしいよ……」
「さびしいです……うぅ、いやです……」
「ふぇ……えええぇ……」
「うぅ、ウチがたよりないから……」
あ、やばい。
そう思った時はもう手遅れで……
「「「うぁあああああーーーんっ!!!」」」
みんな、一斉に泣き出してしまった。
今まで、色々な事件に出会い……
それなりの修羅場を潜ってきたという自信はある。
それでも、この状況は最悪だ。
どうしていいかわからない。
「レイン、レイン! 私をおいていかないでにゃー!」
「あたしといっしょにいなさいよー! いてよー!」
「ソラはさびしいです……さびしいのはいやです……」
「やだよー、いっしょにいてほしいよー」
「あうー」
「ウチなんて……」
みんな、ひしっとしがみついてきた。
足に、背中に、手に……
ダメだ、これ。
みんなの力がすごいのもあるけど、強引に振りほどいたらどうなるか。
っていうか……
「やばい……待って、待った。服は引っ張らないでくれ、首が締まって……!?」
「「「レーイーンー!!!」」」
「……ぐは」
小さくなったみんなに抱きつかれ、揺さぶられ、そして俺の意識は落ちていった。