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95話 あんパン

「たまには散歩もいいですわね」


 穏やかな日差しが降り注ぐ公園を、イリスはゆっくりと歩く。


 鳥のさえずり。

 風に運ばれてくる自然の香り。

 優しい陽。


 ともすれば、うつらうつらとしてしまいそうで、そこらの芝生に転がり昼寝をしてしまいたくなる。


 まあ、さすがにそんなことはしないが。


「このまましばらく散歩をして、お腹を減らして……それから、いつものように向日葵へ行きましょうか」


 ここ数日、近くの盗賊団を全て壊滅させておいた。

 宝はなかったものの、連中はそれなりの懸賞金がかけられていたため、全て、冒険者ギルドに引き渡した。

 おかげで懐はかなり潤った。

 これで以前のような失態を侵すことはない。


「ふふ、わたくしは失敗を糧に成長できるのですわ……どやっ」


 誇らしげな顔をするものの、すでに一度、食い逃げになりそうな汚点を作っているため、まったく誇ることができない。

 ついでに言うと、できて当たり前のことだ。


「あら」

「ごめん、お姉ちゃん!」


 ふと、子供がぶつかってきた。

 子供は謝りつつ、彼方へ駆けていく。


「……ふぅん」




――――――――――




「へへ、ちょろいぜ」


 人気のない路地にさきほどの子供……女の子がいた。

 手には白の財布。

 彼女の戦利品だ。


 さっそく中を開いて、中身の確認を……


「あらあら、いけない子ですわ」

「っ!?」


 女の子が慌てて振り返ると、いつからそこにいたのかイリスの姿があった。


「ど、どうして……」

「わたくしが財布を盗まれて気づかないようなおマヌケさんだと思ったのですか?」


 はい、思いました。

 なんて正直に答えることはできず、女の子は苦い顔になる。


「さあ、財布を返していただきましょうか。今なら軽いおしおきで済ませてあげますわ」

「な、なにをするつもりだよ……?」

「そうですね……お尻ペンペン100回でしょうか♪」

「ひぃ……」

「しかも、公衆の面前で」

「ひぃ!?」


 幼いけれど、一応、女の子。

 そんな目に遭わされたら再起不能になってしまう。

 ついつい、女の子はお尻を隠すように両手を後ろに回した。


 その時、きゅるるる、という可愛らしい音が響いた。


「……」

「あら? あなた、お腹が空いていますの?」

「うぅ……わ、悪いかよ。こちとら、もう3日もなにも食べていないんだ」

「ふむ」


 人間は復讐の対象だ。

 しかし、大人はまだ幼い子供を庇護する義務がある。

 種族が違うとしても、そこは共通の認識だろう。


「仕方ありませんわね」

「?」

「まずは、財布を返していただきましょうか」

「……ごめんなさい」

「はい、確かに。では、わたくしについてきてください」

「お、お尻ペンペンか!? それとも、冒険者ギルドに突き出すんじゃあ……」

「どちらも違いますわ。仕方ないので、美味しいものを差し上げます」




――――――――――




「はい、これをどうぞ」


 イリスはとある店で丸いパンを二つ買い、一つを女の子に差し出した。


「これは……」

「『あーんぱん!』というものらしいですわ。最近、わたくしも知ったばかりなのですが、とても美味しいですわよ?」

「……くれるのか?」

「気が向いたので」


 女の子は小動物のように警戒しつつも、あんパンを食べた。

 それを見て、イリスもあんパンを食べる。


「ふぁ♪」


 美味しい。


 パン生地はふわふわのもちもちだ。

 雲のように柔らかいのに、しっかりとした噛みごたえがある。


 やや甘く、これだけでもすんなりと食べられてしまいそう。

 でも、そんなパン生地の中にあんこがたっぷりと詰められていた。


 豆を甘くことこと煮込んだあんこ。

 粒がしっかりと残っていて、豆の存在感がしっかりと主張されていた。


 豆の旨味。

 そして、砂糖などの甘味料の甘味。

 それらがちょうどいい塩梅で混ざり、甘味だけではなくて旨味も感じられるあんこになっていた。


 それらがパン生地に包まれている。

 なんて完成度の高いあんパンなのだろう。

 一口食べると、パン生地とあんこが口の中に広がる。

 それらは互いをフォローして、そして、引き伸ばしていく。


 もちろん、甘いは甘い。

 でも、甘ったるい、ということはない。

 適度に甘く、そして、美味しい。

 旨味が最大限に引き出されているため、甘さなんて気にならない。

 むしろ、素晴らしいアクセントになっていた。


 あんこがたっぷりなのもたまらない。

 普通のあんパンは、あんこはほどほどの量だ。

 中は半分くらい空洞になっていて、ちょっと寂しい。


 でも、このあんパンは違う。

 ぎっしりとあんこが詰められていて、はち切れてしまいそうだ。

 パン生地の方が少ないのでは? と思うほど。


 たっぷりのあんこ。

 そして、ふわふわのパン生地。

 まさに、あんパンの究極形態だ。


「美味しいですわ♪」

「うん、美味しいね♪」


 女の子も笑顔になっていた。

 イリスも笑顔だ。


 今この瞬間は、被害者と加害者という関係は消えていた。

 一緒に仲良く美味しいものを食べる仲間。


 そう、あんパンはみんなを笑顔にする。

 世界平和のためのアイテムなのだ!


「……なーんて、大げさすぎますわね」

「どうしたの、お姉ちゃん?」

「いえ、なんでもありませんわ。とにかく、盗みなんてやめておきなさい。わたくしだからよかったものの、もしかしたら、とんでもなく痛い目に遭っていたかもしれませんわよ」

「わ、わかったよ……」

「いい返事ですわ」


 イリスは笑顔を浮かべて、そっと女の子の頭を撫でた。

ひとまずグルメ(?)シリーズはここで終わりです。

お付き合いいただき、ありがとうございました。

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[良い点] この女の子この後まっとうになれたのだろうか? あと、イリス、食べ物の正しい名前を言えたのは1回もなかったような気が・・。
[一言] たしかにやめないとイリスがまるまるしちゃうw
[一言] >「わたくしが財布を盗まれて気づかないようなおマヌケさんだと思ったのですか?」 カナデ「思ったにゃ」 タニア「思ったわ」 ソラ「思いました」 ルナ「思ったのだ」
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