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94話 ステーキ

「おう、嬢ちゃん。今日も元気そうだな!」

「ええ、ごきげんよう」


 向日葵に入ると、常連客が笑顔で声をかけてきた。

 イリスも笑顔で応える。


 復讐はどうした?

 と、昔のイリスが見たらツッコミを入れそうな光景だけど、本人は気にしない。

 今は美味しいご飯を食べることで頭がいっぱいなのだ。


「さて、今日はどうしましょうか?」


 メニューを見ると心が躍る。

 向日葵の料理は知らないものばかりで、しかも、外れがない。


 今日はなにを食べようか?

 よだれを垂らしそうになりつつ、イリスはメニューに目を通していく。


「あら」


 『和牛ステーキセット』で目が止まる。


「『すてきー』ですか……ふむ、それほど素敵な食べ物なのでしょうか?」


 和牛ということは、牛を使った肉料理なのだろう。

 『和』の牛というのは意味がわからないけど……

 まあ、向日葵の料理ならハズレはないだろうと注文した。


「おまたせしましたー、和牛ステーキセットです!」

「まあ♪」


 イリスは思わず歓声をあげた。


 熱々の鉄板の上にもやしが敷かれ、その上に肉が載せられていた。

 そして、サイドに付け合わせのポテトとにんじん。


「鉄板が熱々なのは、冷めることなく、いつでも温かい料理が食べられるという配慮なのですね。しかし、もやしはなんでしょう? ふむ……ああ、なるほど」


 もやしを敷くことで、肉が焼けすぎてしまうことを防いでいるのだろう。

 確かに、焼きすぎた肉は固く、旨味が逃げ出してしまっている。


「なかなか考えられているのですね。なにはともあれ、さっそく……あむっ」


 瞬間、口の中に幸せが広がる。


「ふぁ……これは♪」


 1センチ以上の厚切り肉なのに、とろけるように柔らかい。

 歯が必要ないのでは? と思うほどだ。

 肉がしっかりと熟成されていて、それでいて脂身がほどよく入っているからだろう。


 分厚い肉を噛むと、旨味と共に肉汁があふれる。

 肉本来の旨味、甘味。

 それらが舌を喜ばせてくれて、恍惚感すら覚えてしまう。


 ソースは濃い目だ。

 とろとろで肉に絡みついている。


 肉汁をベースにしているのだろう。

 肉の旨味が感じられた。

 そこにブイヨンなどを加えて、各種調味料で味を整えている。

 ほのかに香るバターの風味がいい。


 旨味たっぷりの分厚い肉に、濃いめのソース。

 普通ならくどく感じてしまうが、このステーキは違う。

 個性の強いメンバーを見事にまとめあげていた。


 噛めば旨味が広がり。

 飲み込むとソースの香りが喉奥にまで届いていく。


 これぞ肉!

 というような料理だ。


「これは、たまらないですわ。手が止まらないですわ」


 イリスはぱくぱくと食べた。

 夢中になってステーキを食べた。


 熱々?

 量が多い?


 そんなことは気にしない。

 ただただ美味しく、肉の魅力の虜にされていた。


 気がつけば鉄皿が空になっていた。


「はふぅ……一気に食べすぎましたわ。もったいない。あ、口を開くとお肉の余韻が……」


 イリスは幸せいっぱいの顔で余韻に浸る。


 『すてきー』は、名前の通りとても素敵な料理だった。

 また今度食べよう。


 そう決めて、イリスは席を立つ。


「チトセさん、お会計をお願いしますわ」

「はい! えっと……金貨一枚と銀貨五枚になります」

「……は?」


 聞き間違いだろうか?

 今、金貨と言われたような気がする。


「今、なんて?」

「金貨一枚と銀貨五枚です」

「……」

「イリスさん?」

「そ……そこまで高い料理でしたの……?」


 イリスはだらだらと汗を流した。

 まずい、お金が足りない。


『最強種の天族、食い逃げで捕まる!』


 なんてニュースが流れたら死んでしまう。

 恥ずか死してしまう。


「えっと……もしかして、お金が足りないんですか?」

「……はい」


 逃げるわけにはいかず、かといってごまかすこともできず、イリスはうなだれつつ頷いた。


「あー……お皿洗いでなんとかならないか、店長に相談してきますね?」

「感謝いたしますわ……」


 その後……

 しくしくと泣きながら皿洗いをするイリスが目撃されとかなんとか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] イリス・・・そうか!戦う時皿洗いをすると言えば楽に勝てたのか!?
[一言] >しくしくと泣きながら皿洗いをするイリスが目撃されとかなんとか。 このポンコツ残念少女w
[良い点] 支払いを済まそうと思ったら なんとお値段がイリスの想像を超えていて、そのため皿洗いをする羽目になったイリスに爆笑ww [一言] 何故かこの一言をある人物達に言いたい(まぁ本当は言わなくて…
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