91話 ホットドッグ
「ふんふーん♪」
イリスは笑顔で街を歩いていた。
向かう先は、食堂『向日葵』だ。
今日はなにを食べよう?
新しいメニューに挑戦しようか?
それとも、前に食べた美味しい料理をもう一度?
あれこれ考えていると自然と笑顔になる。
それが、美味しいご飯の魔力だ。
「あら?」
ふと、小さな女の子が見えた。
六歳くらいの幼女で、涙をいっぱいに溜めて、不安そうにキョロキョロとしていた。
迷子だろう。
そう判断したイリスは、気にすることなく向日葵へ向かう。
なぜ自分が人間を助けなくてはならないのか?
そもそも、他の人間が声をかけるだろう。
わざわざ関わる必要はない。
そう思っていたのだけど、誰も女の子に声をかけない。
やがて女の子は不安が頂点に達して、しゃくりあげてしまう。
「……あーもうっ!」
舌打ち一つ。
イリスは女の子のところへ向かうのだった。
――――――――――
「うぅ……パパ、ママ……」
「大丈夫ですわ。あなたのご両親は、わたくしが見つけてさしあげますから」
「うん……」
結局、イリスは女の子を見捨てることができず、一緒に両親を探すことにした。
人間に復讐したいのに、どうして人間を助けているのか?
最近の自分の行動がよくわからなくなってしまい、そこはかとなく悩むイリスだった。
「おねーちゃん」
「なんですの?」
「お腹空いた……」
「ぐ……この子、遠慮というものがありませんわね」
とはいえ、空腹を覚えたのはイリスも同じだ。
元々、向日葵に行く予定だったのでなにも食べず、お腹を空けていたのが効いた。
「あら、ちょうどいいところに屋台が」
いい香りがする屋台を見つけて、イリスは女の子の手を引いてそちらへ向かう。
「ごきげんよう」
「いらっしゃい! おや、これは可愛い姉妹だ」
「……こちらは、なにを売っていらっしゃるのですか?」
姉妹ということを否定するのも面倒なので、イリスは話を先に進めた。
「ここはホットドッグの店さ」
「『ほっとっとどっく』?」
聞いたことがない名前の食べ物だ。
イリスは小首を傾げる。
ただ、女の子は目をキラキラさせて、ちょっとよだれを垂らしていた。
この反応を見る限り、たぶん、美味しい食べ物なのだろう。
「では、そちらを二つくださいな」
「あいよ、毎度あり!」
店主は威勢のいい声で応えると、さっそく商品の用意を始めた。
なにやら細長いものを焼いて、それを細長いパンに挟む。
その上から赤と黄色のニ種類のソースをかけて完成だ。
「はいよっ、ホットドッグ二つ、おまちどうさん!」
「ありがとうございますわ」
イリスは銅貨を数枚渡して、代わりに二つのホットドッグを受け取る。
その一つを女の子に渡して、近くのベンチに並んで座った。
「ふむ、これが『ほっとっとどっぐ』……犬が挟まっているかと思いましたが、そのようなことはありませんのね」
「あーん」
女の子はさっそくホットドッグを食べていた。
両手で持ち、笑顔でぱくりとかじりついた。
それを見て食べた方を学んだイリスは、真似をしてぱくりとかじる。
「っ!?」
まず最初に、カリッと焼けたパンの感触と、その香ばしさが広がる。
ほどよい焼き加減で、外はカリッと、中はふわっと。
絶妙な加減で、これだけでもすでに美味しい。
そして、間に挟まれているもの。
かじると、ジュワッと肉汁があふれてきた。
肉をなにかに包んだ料理らしい。
味付けは、おそらくは塩と胡椒。
それと、ハーブが使われているのだろう。
香りのついた甘味が口に広がる。
単純な料理に見えて、単純ではない。
色々なスパイスが加わり、肉の旨味とこれでもかと引き出していた。
そんな肉をパンで挟んで食べる。
なんて素晴らしい。
肉はややワイルドな味付けではあるが、香ばしく甘味のあるパンが、それをしっかりと受け止めていた。
一つ一つが素晴らしい料理ではあるが、組み合わさることで、さらに旨味が倍増していた。
極めつけは赤と黄色のソースは。
赤は酸味と甘味が強く、それでいてフルーティーな香りがした。
黄色のソースは辛味が強く、ピリッと口の中が痺れてしまう。
だからこそ逆に、肉とパンの旨味が引き立つ。
肉とパンとソース。
まさに三位一体。
これほどまでに調和がとれて、なおかつ美味しい料理はない。
「あぁ、素敵ですわ……まさか、このようなところでこのように美味しい料理に出会うことができるなんて」
「おねーちゃん、おいしいね!」
「ええ、とても美味しいですわ」
イリスも女の子も笑っていた。
美味しいご飯は人を笑顔にするのだ。
――――――――――
ほどなくして女の子の両親が見つかり、二人は別れることに。
ただ、最後に女の子は笑顔で言う。
「ありがとー、ホットドッグのおねーちゃん!」
「なんですの、その呼び名は!?」
妙な呼び名をつけられてしまい、これだから子供は……とふてくされるイリスだった。




