表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/237

90話 レモンサワー

「ふぁあ……今日も幸せな時間でしたわ」


 向日葵のいつものカウンター席で、イリスはにっこりと笑う。


 今日はスズはいなかった。

 なので一人で『かれぇ』を食べた。


 食べるのは二度目だけど、まったく飽きない。

 むしろ、今すぐに三度目を食べたくなってしまう。


 辛さと旨味のハーモニー。

 食欲をそそる香りと濃厚なソース。

 どれをとっても一級品だ。


「あら、いけない」


 よだれを垂らしてしまいそうになり、イリスはすまし顔に。


「チトセさん、会計をお願いしますわ」

「はい、いつもありがとうございます!」


 イリスは銀貨を一枚、チトセに渡した。


 ちなみに、イリスはどこで金を手に入れたのか?

 街の外をうろつく盗賊をしばいて手に入れたことは秘密だ。


「さて、食後の散歩でも……」

「なんだとてめえ!?」

「あら?」


 ふと、怒声が響き渡る。

 何事かと視線をやると、大男が二人、席を立ち睨み合っていた。


「さっきからなんだ、おい。下品に笑いやがって、うるせえんだよ!」

「あぁ? 酒を飲んでて気分がいい時に、なんだ、てめえ。うるせえのはてめえの方だ!」

「なんだと、やるか!?」

「あぁ!?」


 酔っ払い同士のケンカのようだ。

 昼間から酒を飲み、しかも酒に飲まれてしまうとは情けない。

 周囲の客達は冷ややかな視線を送る。


「……」


 イリスも冷ややかな……いや。

 それ以上の、絶対零度の視線を送っていた。


 美味しいご飯を食べて幸せだったのに、それをぶち壊された。

 魔物以下の畜生の蛮行だ。

 断じて許せるものではない。


「少しいいでしょうか?」

「あぁ、なんだ、てめえ」

「女子供は引っ込んでろ、殴られてえのか、あぁん?」

「殴られたいのではなくて、わたくしの方が殴りたいのですわ」

「はぁ? なにを言ってごるはぁっ!!!?」


 どがぁーーーんっ!!!


 と、イリスの平手打ちが炸裂した。

 おおよそ平手打ちとは思えない音が響いて、大男が店の外まで吹き飛んだ。


「「「……」」」


 大男を含めて、店中の者が目を丸くして驚いた。


「あなたも邪魔ですわ」

「ぐはぁあああ!?」


 再び平手打ちが炸裂して、残った大男も吹き飛ばされた。


「ふぅ……食後の運動はこれでいいかもしれませんわね」


 スッキリした。

 そんな感じで、イリスはとてもいい笑顔を浮かべていたのだけど、すぐ周囲の人が言葉をなくすくらい驚いていることに気がついた。


 しまった。

 やりすぎただろうか?


 正体がバレることはまずい。

 それと、今、人間と事を構えるつもりはない。


 ただ、向こうが刃を向けてくるのならば……


「いいぞ、嬢ちゃん!」

「よくやってくれた!」

「最高だぜ!」

「あら?」


 なぜか称賛を浴びてしまう。

 すると、苦笑したチトセがやってきた。


「あの二人、いつも問題を起こして嫌われていたんですよ。だから、お客さんがバシッと決めてくれて、みなさん、スカッとしているんだと思います」

「なるほど。ではわたくしは、悪を懲らしめた勇者というところですわね」

「おーっ、そうだ! 嬢ちゃん、かっこよかったぜ」

「みんな、可愛い勇者に拍手だ!」

「よーし、俺から奢らせてくれ。チトセちゃん、その子にレモンサワーを!」

「承りましたー!」


 笑顔のチトセが飲み物を運んできた。

 もらえるというのならもらう。

 しかし、『れーもんさわー』とはなんだろう?


「なんですか、これ?」

「あれ、知りませんか? お酒ですよ」

「……お酒……」


 そういえば、まだ酒は飲んだことがないな、とイリスは思った。

 それと同時に、酒を飲み、いつも人格が豹変していた姉のような存在を思い出す。


「わたくしもオフィーリア姉さまのようになってしまうのでしょうか……?」


 だとしたら迷う。

 あんな痴態は晒したくない。


 ただ、酒に興味もあった。

 飲んだことがないので、ぜひ飲んでみたい。


「……えいっ」


 迷った末に、イリスは『れーもんさわー』に口をつけた。

 ぐいっと煽る。


「っ!!!?」


 美味しい。

 ただただ、最初にそんな言葉が出てきた。


 わずかに弾ける炭酸は心地いい。

 喉を甘く刺激してくれて、酒を飲んでいる、と強く実感する。


 そしてまた、喉を軽く灼くような感覚。

 これもまた酒の効果なのだろう。


 だがしかし、悪いものではない。

 この灼けるような感覚が逆に心地いい。

 わずかに刺激を受けることで、より敏感になっている、とでも言うべきか。


 そして鼻に抜けているフルーティーな香り。

 これはレモンだ。

 酸味と甘味。

 その両方をしっかりと味わうことができて、灼けるように強い酒をマイルドにしてくれていた。


「これは……美味しいですわ!」

「おう、嬢ちゃんいける口だな。一気に飲むとは思わなかったぜ」

「今度は俺が奢らせてくれ!」

「よろしいのですか!?」

「次は俺だ!」

「よーし、ならその次は俺だ!」

「ふふ、ありがとうございます」


 なんだかふわふわとする。

 足元が少しおぼつかない。


 これが『酔い』というやつだろうか?

 イリスはその感覚を好ましく思った。


 ふわふわと浮いているような感じ。

 心も同じく弾む。


 楽しい。

 よくわからないけど、意味もなく楽しい。


「今日はとことん飲みますわー!」

「「「おぉーーー!!!」」」


 新しく宴会が発生してしまい、チトセは苦笑するのだった。




――――――――――




 翌日。


「あ、頭が……あうあうあう……」


 しっかりと二日酔いになってしまうイリスは、やっぱりイリスだった。

 基本、気を抜いている時の彼女はぽんこつなのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://ncode.syosetu.com/n8290ko/
― 新着の感想 ―
[良い点] おお!神よ、ここにまた新たなポンコツが生まれてしまいました! ああ、天使が堕天してしまうのは酒が理由だったとは!
[気になる点] そういえば、まだ酒は飲んだことがないな、とイリスは思った。 それと同時に、酒を飲み、いつも人格が豹変していた姉のような存在を思い出す。 「わたくしもオフィーリア姉さまのようになってしま…
[一言] >それと同時に、酒を飲み、いつも人格が豹変していた姉のような存在を思い出す。 オフィーリアは酒乱族、オレ覚えたw ちなみにイリスはポンコツ族w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ