85話 シチュー
「ふぅ……今日は寒いですわね」
「いらっしゃいませ。こちらをどうぞ」
「あら、ありがとう」
外は雪が降っていたため、イリスはいくらかの雪を被っていた。
チトセから渡されたタオルで髪を拭う。
「ありがとうございます」
「どういたしまして!」
「ついでに聞きたいのですが、今日みたいな日にピッタリな料理はなんでしょう?」
「そうですね……シチューなんていかがでしょう?」
「『しつー』?」
「じっくりコトコト煮込んだスープですよ。温かくてとても美味しいです」
「なるほど……では、それをくださいな」
「承りましたー!」
チトセは笑顔で厨房へ移動した。
その後ろ姿を見送りつつ、イリスはわくわくする。
『しつー』というものは温かいスープらしい。
雪が降るような日にはぴったりの料理だ。
いったいどんな料理なのだろう?
スープというからには、なにかを煮込むのだろうか?
じっくりコトコト、という言葉が気になる。
「あぁ、楽しみですわ……おっと、よだれが」
ぽんこつ天使はどこかの猫耳少女と同じレベルになりつつあった。
「おまたせしましたー、シチューです」
しばらくしてチトセが戻ってきた。
「あら♪」
差し出された皿には白いスープが入っていた。
ほかほかと湯気を立てているのを見ていると、それだけで温まりそうだ。
スプーンで軽くかき混ぜてみると、ふんわりと良い匂いが漂う。
「じゃがいも、にんじん、お肉、ブロッコリー、玉ねぎ……ふむ。野菜が多めですわね?」
野菜が嫌いというわけではないが、どちらかというと肉の方が好きだ。
少し残念に思いつつ、スープを一口。
「あらあらあら♪」
美味しい。
思わず笑顔になってしまうような味だ。
とろみのある白いスープは、しっかりと野菜の旨味が溶け込んでいた。
なるほど。
たくさんの野菜を使っているのは、その旨味を少しも逃すことなく、スープに全て伝えるためのものなのだろう。
野菜の甘味、旨味。
それらがしっかりとスープに溶け込んでいた。
逆に、野菜もしっかりとスープの旨味を吸っていた。
柔らかく煮込まれたにんじんは甘い。
ほろほろと崩れてしまいそうなじゃがいも。
スープがたっぷりと絡んだブロッコリー。
それらを食べると、口の中が一気に幸せになる。
それと肉。
これは豚肉だろう。
しっかりと火を入れられているため歯ごたえがある。
しかし、それは旨味が閉じ込められているという証拠だ。
噛む度に深い味が伝わってきて、舌の上に肉の甘さが広がる。
「このようなスープなら、わたくし、野菜が好きになってしまいそうですわ」
それほどまでに美味しい。
ただ、なによりも注目するところは……
「はぁ……温まりますわ」
『しつー』なるスープはとても熱い。
ぐつぐつと煮立っているわけではないが、とろみがあるため、中の熱が逃げにくいのだろう。
ふーふーと息を吹かないと食べることができない。
ただ、それがいい。
熱いスープはしっかりと旨味を表に出していた。
その上で体を温めてくれて、芯までぽかぽかにしてくれる。
「これは、本当に素敵な料理ですわね♪」
手が止まらない。
はふはふしつつ、イリスは一滴も残さずに全て食べた。
「ふぅ……ごちそうさまでした」
今日も美味しいものを食べることができた。
そのことに感謝をして、イリスは両手を合わせるのだった。




