84話 メロンクリームソーダ
「いらっしゃいませー!」
いつものように元気なチトセの声に迎えられた。
それを心地よく感じつつ、イリスはカウンター席に座る。
ほぼ毎日通うことで、ここはイリス専用席になりつつあった。
そして、そんな彼女に視線を送る店内の客。
深窓の令嬢のような見目麗しい彼女に目を奪われてしまうのは仕方のないことだ。
……もっとも、彼女の中身は小悪魔そのものであるが。
「さて、今日はなににしましょうか?」
るんるん気分でメニューを眺める。
人間に対する復讐は完全に忘れていた。
今イリスがするべきことは、向日葵の美味しいご飯を食べ尽くすことだ。
……復讐心が食欲に負けるとは、なんともいえないぽんこつっぷりである。
「あら?」
メニューを眺めていたイリスは、とあるところで視線を止めた。
『メロンクリームソーダ』。
「『メロンくりぃむソーダ』……また不思議な名前ですわね」
メロンはわかる。
しかし、『くりぃむ』と『ソーダ』というものはなんだろう?
「どうやら飲み物みたいですが……そうですね、たまにはのんびりとティータイムをするのもいいでしょう。チサトさん」
「はい、お決まりでしょうか?」
「この『メロンくりぃむソーダ』をお願いいたしますわ」
「かしこまりましたー!」
数分でチサトが戻ってきた。
「どうぞ、『メロンクリームソーダ』です」
「あら」
色鮮やかなエメラルドグリーン。
その上に生クリームがトッピングされていた。
「なるほど、『くりぃむ』は生クリームだったのですね。そして、この香り……このドリンクがメロン味ということなのでしょう。ふふ、謎は全て解けましたわ!」
ドヤ顔を決めるイリス。
そして、優雅にドリンクを飲んで……
「ふぐっ!?」
一瞬でパニックに陥った。
(なんですの、今の!? 口の中で爆発しましたわ! パチパチパチ、って爆発しましたわ!? はっ!? もしやこれは人間の罠!?)
混乱しつつも、なんとか吹き出すことは耐えた。
乙女の矜持である。
「これは……」
改めて『メロンくりぃむソーダ』を見る。
よく観察してみると、ドリンクの中に気泡が浮いていた。
爆弾かと思ったが、これはそういう飲み物らしい。
恐る恐る、もう一度口に含む。
「……あら♪」
爆発するとわかっていれば恐れることはない。
むしろ美味しいではないか。
口の中でパチパチと弾ける感覚。
そしてそれが喉を通り過ぎていく爽快感。
知らないと驚くものの、知れば病みつきになる。
ドリンクはメロンの香りがして美味しい。
スッキリとした爽やかな味わいで、いくらでも飲むことができそうだ。
「こうしてみると……」
イリスは生クリームを混ぜて溶かした。
そして、一口。
「ん♪」
生クリームが溶けたことで、ドリンクがさらに甘くなった。
凶悪的な甘さだ。
しかし、それが美味しい。
甘さは正義。
世の乙女は甘味を求めているのである。
「これも当たりですわ♪」




