80話 決着がついて……
「くそ!」
試合が終わり……
敵チームの控え室で一人の男が吠えていた。
チームのスポンサーの商人だ。
彼は怒りで顔を赤くして、ゴミ箱を蹴るなどして物にあたっていた。
それでも怒りが収まらない。
加速するだけの様子で、ロッカーを何度も何度も蹴る。
「くそくそくそっ、ちくしょう!!!」
ガンガンガン! という音が何度も響いて……
ロッカーがベコベコになって、ようやく男は止まる。
とはいえ、怒りはやはり晴れない。
単純に体力が切れて、動けなくなっただけだ。
「これほどの準備をして、審判達も買収して、絶対に勝てる試合だったはずなのに……それなのに負けてしまうなんて!!! なんていうことだ!!!」
今回の試合のために、いったい、いくら投資したのか?
それを考えると頭が痛い。
いや。
それ以上に負けたことが許せない。
またホライズンに負けた。
また、また、また……また!
屈辱だ。
許せない。
納得できない。
それは逆恨みでしかないのだけど、男は怒りと恨みを募らせていく。
そして、それらを晴らすことこそが正しいと思うようになる。
「そうだ、そうだ……親善試合とか生ぬるいものに付き合う必要なんてない。痛い目に遭わせて、ここが私の街よりも下ということを思い知らせてやればいいのだ」
男は過激な考えを持つ。
それが正しいと思い込んでしまう。
今なら簡単だ。
こういう時のために雇った冒険者達がいる。
強い力を持つが素行の悪さで追放される寸前の者達だ。
金を与えればなんでもやる。
連中に街で暴れてもらう。
そうすることで徹底的に後悔を……
「あらあら♪」
「っ!?」
ふと、若い女性の声が聞こえてきた。
慌てて振り返ると、そこにはナタリーがいた。
ホライズンの冒険者ギルドで働く、親の仇のように憎い相手だ。
「き、貴様!? なぜここに……」
「チームは撤収しているはずなのに音がするので様子を見に来ました。そうしたら、あら不思議。相手チームのスポンサーがいて、そして、なにやら不穏なことを企んでいる様子。どうしましょうか……ねえ?」
ナタリーがニヤリと笑う。
対する男は汗をかく。
ナタリーは男の企みに気づいている様子だった。
男が証拠を持っているわけではないが……
街に待機させている冒険者や、その他諸々……調べればたくさんの埃が出てきてしまう。
どうする?
どうすればいい?
男は焦り、考えて……
そして、今度は男がニヤリと笑う。
「ふ、ふふふ……」
「あら?」
男は雰囲気を変えて、ナタリーに近づいていく。
ナタリーは一歩、後ろに下がるものの……
しかし、そこは壁だった。
「よくも好き勝手してくれたな、よくもコケにしてくれたな……まずは貴様で憂さ晴らしをさせてもらおうか」
「や、やめて……」
「今更遅い! 泣いて後悔するがいい!」
「きゃあああああ……なーんて、ね」
「えっ」
涙目で怯えていたナタリーだけど、一転して、いたずらっ子のような顔に。
詰め寄ってくる男に対して、逆に距離を詰める。
そして、えいっ、と足払い。
男は悲鳴をあげて転ぶ。
しかし、それだけで終わるはずがなくて……
「好き勝手してくれたな、は私の台詞ですよ? 多少のラフプレイなら見逃すつもりでしたけど、まさか、あそこまで好き勝手するなんて」
「え? あ……」
ナタリーはにっこりと笑う。
聖母のような笑みだ。
……その状態で、控え室にあるベンチを持ち上げる。
片手で。
「ひぃ!?」
「よくも私に恥をかかせてくれましたね? あと、シュラウドさん達に嫌われたらどうしてくれるんですか?」
「ま、待って……そんなものを、やめ……」
「今更遅いです! 許しません!!!」
ガァンッ!!!
轟音が響いて……
そして、男はベンチの下敷きになった。
はみ出した手足がピクピクと震えているところを見ると、一応、生きているみたいだ。
「ふ、ふふふ……あなたが悪いのですよ、あなたが」
ナタリーは小刻みに笑い、
「さて……証拠を消しておきますか。ふふふ」
男を片手で引きずり、どこかへ消えていく。
……レイン達が優勝して、喝采を浴びている中。
別の意味の決勝戦が控え室で行われていたのだけど、それは誰も知らない話。
ちょっとここで、一度更新を停止します。
ビーストテイマーの違うスピンオフを書いてみたいと思いまして……
こちら、一時停止します。
一時停止なので、そう遠くないうちに再開します。
待っていただけると嬉しいです。