79話 後半戦・その6
ボールをキープしつつ、ティナの策を聞いた。
正直、それはアリなのか? と思わないでもないのだけど……
でも、敵があれだけのラフプレーをしているのだから、こちらも遠慮はしないことにした。
ティナの策に賭けて、最後の戦いに出る。
「ソラ、ルナ。援護を頼む!」
「はい!」
「うむ!」
ディフェンスは任せろ、というようにソラとルナは後ろでどっしりと構えた。
敵は魔物のように苛烈で、正直、二人のことが心配だ。
でも、今は仲間を信じる。
ソラとルナだけじゃない、ニーナもいる。
絶対にゴールを守ってみせると、ニーナは凛々しい顔をしていた。
それを見た頭の上のティナが、立派になって、と涙ぐんでいる。
気分はすっかり母親だ。
「よし……いくぞ、ティナ!」
「おう!」
ティナを頭の上に乗せたまま、ドリブルで敵陣に切り込んでいく。
パスをすることはできない。
ボールを回すことができず、一人でキープし続けなければいけない。
それはサッカーでは致命的なことだ。
敵もそのことを理解しているため、三人で俺を囲み道を塞ぐ。
このままだとすぐにボールを取られてしまうだろう。
そして、手痛いカウンターを食らう。
でも、そうはさせない。
俺はボールを取られる前に、宙に蹴り上げた。
パス回しができないのなら、こうしてトリッキーな動きをしつつ、前に進んでいくしかない。
ただ、敵はそれも予想済み。
後続が跳んでボールをカットしようとする。
「……重力反転」
「なに!?」
ボールにかかる重力を操作したことで、ふわっと浮かぶ。
その予想外の動きに翻弄された様子で、跳んだ敵はボールをカットすることができず、そのまま通り越してしまう。
当然、俺はこうなることがわかっていた。
ボールの着地点に移動して、トラップ。
そのまま一気に切り込んでいく。
おそらくチャンスはこの一回だけ。
それ以上は厳しいだろう。
だから、ここで確実に一点取る。
そのための策は……
「よっしゃ! レインの旦那、うちに任せとき!」
そう言って、頭の上のティナは……
かくんと全身から力が抜けた。
中に入っていた魂が抜けたかのようだ。
そして……
「っ!?」
敵キーパーがびくんと震えた。
壊れた操り人形のような動きをして……
ややあって、再び顔をあげる。
ニヤリと口元に浮かべた笑み。
それは合図だ。
俺はそれを確認した後、ゴールの隅を狙いシュートを放つ。
経験上、敵キーパーは相当な力を持つ。
カナデ達のシュートを片手で止めて、瞬間移動と思うほどの速度で動いてみせた。
彼の守備を抜くことは相当に難しい。
単純なシュートでは絶対に突破できないのだけど……
ザァッ!!!
ボールがゴールネットを揺らす音が響いた。
「「「……」」」
誰もが唖然として、
「「「うぉおおおおおおお!!!」」」
ほどなくして大歓声がグラウンドを包み込む。
その一方で怒号も響き渡る。
「おい、なにをしていたんだ!? 棒立ちじゃないか!!!」
「ふざけるなよ! 今の守備にすらなっていない守備はなんだ!?」
「お前、まさか敵と繋がっていたのか!?」
敵チームは大激怒。
それもそのはず。
敵キーパーはなにもすることなく、ボールを止めようとする素振りすら見せず、ただ単に突っ立っていたのだから。
味方の怒りは当然だ。
「んっ」
ほどなくして頭の上のティナが動いた。
そして、ニヤリと笑う。
「どや? うまくいったやろ」
「これ以上ないほどにうまくいったよ」
ティナの策は簡単。
相手選手に取り憑いてしまう、というものだ。
単純ではあるが強力極まりない。
効果は見ての通り。
ゴールキーパーがまったく意味をなさなくなってしまう。
「でも、ちょっと気の毒だな」
我に返った敵キーパーはなにが起きたか理解できず、目を白黒させるだけだ。
そんな状態で味方から責められて、もうどうしようもない。
「かまへん、かまへん。うちらを敵に回した罰や」
ティナはとても悪い顔でそう言うのだった。




