71話 サッカーしようぜ・その6
「ふははは、皆の者、待たせたな! 我、復活!」
どうにかこうにか試合に勝利して、ついに迎えた決勝戦。
ルナが復活して、ソラと一緒に復帰した。
これでフルメンバー。
万全の状態で試合に挑むことができる。
対戦相手は……
「ホライズン代表のレインだ、よろしく。良い試合をしよう」
「……ああ」
握手を求めると、やや間を置いて応じてくれた。
それ以上の言葉は必要ない。
そう言うかのように、相手リーダーは自陣に戻ってしまう。
寡黙な人だ。
ただ、それだけではなくて……
「レイン、どうしたの? なんだか怖い顔をしているよ?」
「ああ……ちょっと嫌な予感がして」
握手をした手を見る。
触れた手はとても冷たくて、氷を握っているかのようだった。
――――――――――
「プレイボール」
審判の合図で試合が開始された。
って、あれ?
ナタリーさんが審判をやっていたと思うんだけど、いつの間に交代を?
とにかく、先攻はホライズンチーム。
「いっくよー!」
元気のいい掛け声と共に、カナデがボールをキープして敵陣に切り込んだ。
さすが猫霊族。
最初の試合は戸惑いはあったものの、今では、サッカー初心者とは思えないくらいの見事な動きだ。
単純にドリブルをするだけじゃなくて、フェイクを織り交ぜるなどの技術を披露している。
次々と敵を突破するカナデ。
それだけを見ていると好調なのだけど……
「うーん」
「どうしたんですか、レイン?」
「なんか……わざと突破させているように見えて」
敵は誰も彼も動きが鈍い。
出足が遅く、カナデの突破を許してしまう。
ただ、焦りや悔しさが表情に出ることはなくて……
むしろ、余裕のようなものを感じられた。
どうぞ、とカナデの突撃を許しているかのようだ。
そのことに気づいているのかいないのか、カナデは突撃を重ねて、敵陣深くに切り込んだ。
そして、ゴール前に来たところで足を大きく振りかぶる。
「スーパーハイパーウルトラミラクルにゃんだふるシュートっ!!!」
「「「ださっ!?」」」
みんなの総ツッコミを受けつつ、カナデがボールを蹴る。
全力シュート。
ボールがみしみしと悲鳴をあげつつ飛ぶ。
キーパーの真正面だけど、普通に考えて取れるわけが……
がしぃっ!!!
「えっ」
キーパーはカナデのボールを受け止めてみせた。
しかも片手で。
「そんな!? カナデのおかしいレベルのパワーのシュートが止められるなんて!?」
「うむ、カナデはおかしいから、止められるわけがないのだ!」
「おかしいおかしい言わないでくれるかな!?」
ソラとルナは、いったいどちらの味方なのか?
「ふっ」
ふと、相手キーパーがニヒルに笑う。
そして……コロコロと、カナデに向かってボールを転がしてみせた。
それから、指をちょいちょいとやる。
あからさまな挑発だ。
「むかっ……いいよ、そこまで言うのなら、私の本気を見せてあげる!」
カナデはイラッとした顔で、再びボールに足を伸ばす。
周囲の選手はそれを止める様子はない。
どうぞ、という感じで見守っていた。
それだけキーパーに絶対的な信頼を置いている、ということか。
「いくよっ! これで……倒してあげるっ!!!」
キーパーを倒すのが目的じゃないかなら?
ゴールを勝ち取ることが目的だからな?
「うにゃあああああんっ!!!」
カナデの全力シュート。
再びキーパーの真正面だけど、威力、速度共にさきほどと比べ物にならない。
……ちなみに、ソラとルナの魔法で補強してあるため、ボールが破裂することはない。
「これでノックアウトだよ!」
だから、倒してどうする。
「……ふっ」
「にゃ!?」
ゴガァッ!!! という爆音が響くものの……
しかし、キーパーは無事だ。
さきほどの光景を再現するかのように、片手でボールを受け止めている。
ボールの勢いに押されることもない。
しっかりと両足を地面につけて、体勢を崩すこともない。
なんてキーパーだ。
猫霊族のシュートを涼しい顔をして受け止めるなんて、人間業じゃない。
もしかして、あのキーパーも最強種……?
「さて……次は反撃をさせてもらおうか」
「!?」
「ぬぅんっ!!!」
キーパーは気合の声を発しつつ、ボールを空高く投げた。
魔法で打ち出されたかのような勢いで、風を巻き込みつつ飛翔して……
そして、まっすぐにこちらのゴールに迫る。




