62話 慰安旅行・その4
夜。
畳という不思議な感触がする床に布団を並べて、みんなで一緒に寝る。
本当なら、俺は別部屋にするべきなのだけど、女将に強引に押し切られてしまった。
でも、まあ。
たまには、こうしてみんなで一緒に寝るのも悪くないかも。
旅行らしさを味わうことができて、寝るだけでも楽しい。
ただ……
「すぅ、すぅ……」
「くかー……くかー……」
暗闇の中、みんなの寝息が聞こえてくる。
それを聞いていると、一緒の部屋で寝ているんだ、と妙に意識してしまい……
一向に眠気が訪れないのだった。
「はぁ……」
みんなは、よく普通に寝られるよな。
まるで緊張していないというか、警戒感がゼロというか……
もしかして、俺は異性として見られていないのだろうか?
まあ、変にギクシャクするよりは断然いい。
いいのだけど、異性として意識されていないと思うと、それはそれで複雑な気分になってしまうのだった。
「ふぁ……やっと、眠れそうかも……」
あれこれ考えていると、頭が疲れてきたのか、少しずつ眠気がやってきた。
まぶたが重くなり、自然と目が閉じていく。
このまま夢の世界に……
「うー……にゃん!」
「ごはっ!?」
隣に寝るカナデが、突然、くるっと回転した。
その際、蹴り飛ばされてしまう。
「か、カナデ……?」
「うにゃー……むにゅむにゅ、もう食べられないよぉ……」
なんていうベタな寝言。
っていうか、今の、寝返りだったのか。
もしかして、寝相が悪いのだろうか?
「ふぅ……少し離れておいた方がいいな」
布団をちょっとだけ横に移動させた。
これでよし。
カナデがもう一度寝返りを打っても、蹴り飛ばされることはないだろう。
俺は安心して眠りに……
「うー……なによ、もうっ」
「がはっ!?」
再びの衝撃。
見ると、今度はタニアが寝返りを打っていた。
蹴り飛ばされてはいないのだけど、尻尾が当たってしまう。
タニアは寝相が悪いっていうよりは、尻尾が大きいから、寝返りを打つだけで当たってしまうのだろう。
「まいったな……」
さらに布団を横に移動させた。
隣は、ソラとルナだ。
この二人なら、寝返りを打ったとしてもひどいことにはならないだろう。
うん。
これで安眠を……
「むー……ゲイルショックです」
「喰らえ魔物め……ウインドテイルなのだ」
「っ!?!?!?」
衝撃波が叩きつけられて、声にならない悲鳴がこぼれた。
し、しまった……
二人は激しい寝返りを打たない分、寝言で魔法を唱えてしまうのか。
さすがに、その展開は予想していなかった。
「……なあなあ」
またか!?
と警戒しつつ振り返ると、ティナがふわふわと浮いていた。
「レインの旦那、大丈夫?」
「あ、ああ……ティナか。一応、大丈夫だよ」
「みんな、すごい寝相やなー」
「わざとやっているんじゃないか、って疑いたくなるほどひどいな……」
打撃と魔法を食らっているため、俺はげっそりしつつ、そう言う。
実際のところ、わざとなんてありえないのだけど……
でも、その可能性を疑いたくなるほどひどい。
カナデとタニアは、まあ、理解できなくもないが……
ソラとルナはどういうことだ?
寝ながら魔法を放つとか、ちょっとありえない。
「俺、今からでも外で寝ようかな……」
「大変やなあ……ウチ、協力しよか?」
「え?」
「ウチの力で、みんなを動けないようにするんや。普段はそんなことできへんけど、寝てる今なら可能やと思う」
「なるほど」
「で、レインの旦那は、唯一の安全地帯のニーナの隣で寝るんや。それなら安心やろ?」
「そうかもしれないけど……ティナは、それだと寝れないんじゃあ?」
「ウチは大丈夫や。幽霊やから、寝なくても問題ないしな」
「そっか……なら、悪いけど頼んでもいいかな?」
「了解やでー」
ティナはにっこり笑うと、さっそく力を使う。
すると、暴れるような寝相を見せていたみんながピタリとおとなしくなった。
うん。
これなら安心して眠れそうだ。
俺はニーナの隣に布団を移動させて、横になる。
「おやすみ……」
ぎゅう。
「え?」
目を閉じたところで、なにやら温かい感触が。
「すぅ……すぅ……」
見ると、ニーナがこちらに抱きついていた。
なんていうことだ。
ニーナも寝相が悪かったなんて。
でも……
「これくらい、かわいいものか」
こうして抱きついているのは、寂しいから、という理由もあるのだろう。
なら、振り払うことはしたくない。
「というか、もう眠気が……限界だ……」
色々あったから疲れた。
俺は眠気に身を任せて、そっと目を閉じた。
……翌朝。
俺に抱きつくようにして寝るニーナを見て、ティナを除いたみんなが大騒ぎするのだけど、それはまた別の話だ。
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