61話 慰安旅行・その3
「旅行の夜……それは、決戦の日!」
浴衣姿のカナデが、びしっとポーズを決めつつ、強く言った。
「決戦……ですか?」
「なんのことなのだ?」
「そもそも、もう寝る時間でしょ。なにかするにしても遅いわよ」
「ふっふっふ、寝るのはまだ早いよ」
不敵に笑うカナデは、脇に枕を抱えていた。
それを持ち上げて、宝物のように掲げる。
「旅行の夜といえば、枕投げだよ!」
「あー……」
ついつい納得してしまう。
確かに、枕投げは定番だよな。
旅行という非日常感も相まって、とても楽しくなるだろう。
ただ……
「枕投げか……楽しそうね」
「やってみましょうか」
「うむ、何事もチャレンジなのだ!」
「がん、ばる」
「ふふん、本気を出す時が来たようやな」
みんな乗り気だけど……
このメンバーで枕投げをすると、大惨事になりそうな気がするのは俺だけだろうか?
――――――――――
なにはともあれ、枕投げ大会が開催されることに。
細かいルールはなし。
チーム分けもなし。
とりあえず、楽しく遊べればよしというスタイルだ。
「えいっ」
かわいらしいかけ声と共に、ソラがこちらに枕を投げてきた。
横に跳んで枕を避ける。
「あぁ!? 避けられてしまいました」
「ふふふ、姉よ、愚かだな。枕は一つ……唯一の武器を、そう簡単に手放してしまうとは」
「え? え?」
「こうなると、もう姉はどうすることもできない……狼の群れに放り込まれた羊も同然なのだ!」
ルナが悪い笑みを浮かべて、枕を片手にソラに迫る。
カナデとタニアも迫る。
「ちょ……!? みんなで来るのは卑怯じゃないですか!?」
「「「ふっふっふ」」」
「そ、そのような真似は最強種としてふさわしく……れ、レイン!?」
助けを求めるような視線を送られるけど、
「えっと……ごめん」
「っ!?!?!?」
悪いと思うのだけど、その三人を止めることはできない。
というか……
枕投げって、こうして結託するのもアリだからなあ。
「覚悟なのだー!!!」
「ひゃあああああ!?」
……こうして、ソラが撃沈した。
「ふはははっ! 我が姉、恐れるに足らず!!!」
「うんうん、そうだね」
「でも、そうやって油断するのがルナの悪いところよ?」
「ふぎゅ!?」
速攻で裏切られて、ルナはカナデとタニアの枕を受けて沈む。
一時とはいえ仲間だった相手をこうも簡単に裏切るなんて……
カナデとタニアは、なんて恐ろしい相手なんだ。
ほら。
ニーナなんて、ガクガクと震えている。
「さあ、次はニーナよ!」
「覚悟してね!」
二人はソラとルナの枕を奪い、それをニーナに向けて投げた。
さすがに本気で投げるような大人気ない真似はしていない。
それなりに手加減しているらしく、ソラの時と同じような速度で、ニーナに向かって枕が飛ぶ。
「ほい」
ティナがくるっと指先を回転させると、枕が宙でピタリと止まる。
反転して、ものすごい勢いでカナデとタニアに突き刺さる。
「にゃ!?」
「きゃあ!?」
思わぬ反撃を受けて、カナデとタニアが沈んだ。
「ふふん、ニーナはやらせんでー」
ドヤ顔をするティナは、さながら姫に仕える騎士のよう。
ニーナの絶対的な守護者となり、全ての攻撃を阻む。
「さあ、ニーナ。残りはレインの旦那だけや!」
「えっと、えっと……」
「やってしまうんや、あははは!」
悪の組織の女幹部のようにティナが笑う。
ノリノリすぎるだろう。
でも……
大ピンチだ。
ティナがいる限り、こちらの攻撃は通じない。
仮にティナを抜けたとしても、ニーナの転移能力があれば、攻撃は無効化されてしまう。
そもそも……
ニーナを相手に本気で枕を投げられるわけないだろう!
無理だ!
「くっ……」
敗北を悟り、俺は苦い表情をして……
「あく、しゅ」
「え?」
ニーナは枕を投げるのではなくて、手を差し出してきた。
「ケンカ……ダメ」
「えっと……」
「もしかして、ニーナ……枕投げの意味を理解しとらん?」
「ふぇ?」
うん。
これは理解していないな。
たぶん、俺達がよくわからないケンカを始めたと思っていたのだろう。
「はは……これ、色々な意味でニーナが一番だな」
「せやな、ウチらの負けや」
「???」
キョトンと小首を傾げるニーナは、どことなく天使のように見えるのだった。
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