57話 ティナの妄想
「ふんふ~ん♪」
メイド服姿のティナは、ご機嫌な様子で鼻歌を歌う。
はたきを片手に床の上を歩いて、家のあちらこちらを掃除する。
「よし、こんなところやろ」
ほどなくして掃除が終わり、家中がピカピカになった。
自らの仕事っぷりに満足した様子で、ティナはにかっという笑顔を浮かべる。
「さてさて、次は夕食の仕込みを……うん?」
「ただいまー」
玄関の扉が開く音。
次いで、愛しい人の声が聞こえてきた。
ティナはパタパタと足音を鳴らしつつ、慌てて玄関に向かう。
そこにいたのは、愛する夫であり、ご主人さまでもある大事な人。
レインだ。
「あれ? どうしたん、レイン。今日はやけに早いなー」
「思いの外商談がうまくまとまったんだ。それで、仕事も早く終わって」
レインはホライズンを拠点とする商人だ。
最初は露店から始まったのだけど、今は複数の店を持つ大きな商会に成長していた。
「そか。うまくいったようでなによりや」
「ティナのおかげだよ」
「ウチの?」
「ほら。少し前に、小麦を仕入れてみたら? って言ってくれただろう? 今日の取り引き相手は、ちょうど小麦を大量に欲しているみたいでさ。俺のところにいくらかありますよ、って言ったらトントン拍子に話が進んで……だから、ありがとう」
「ウチは思いつきで言っただけやからなー。それを、きちんと商売に繋げたのはレインの力やで」
「でも、ティナが言ってくれなかったら、小麦を買おうとは思わなかったし。やっぱりティナのおかげだよ」
「いやいや、レインの……」
「いやいや、ティナの……」
ややあって、レインとティナはくすりと笑う。
「俺達、なにをしているんだろうな」
「こんな定番のやりとり、ほんまにすることになるとはなー」
ティナは笑いつつ、レインが持つ鞄を受け取る。
さらにジャケットも脱がせた。
「あ、いいよ。そんなことしなくて」
「ええの。ウチはメイドなんやから、これくらいはさせて」
「それはそうだけど……でも、メイドと同時に、ティナは俺の奥さんだろう?」
「せやけど……」
「なら、あまり負担をかけたくないんだ」
「わかっとらんなー」
「え?」
「奥さんは、旦那さまのために色々としたいんや。尽くしたいんや」
ティナはにっこりと笑うのだった。
――――――――――
本日の夕食のメインは、ビーフシチューだ。
じっくりコトコト煮込まれているため、肉はとろけるように柔らかい。
他の具材にもスープの味が染み込んでいる。
濃厚な味ではあるが、しかし、飽きが来ることはない。
むしろ、一口ごとに旨味があふれてくるため、食べる手が止まらない。
他には、自家栽培の野菜を使ったサラダ。
同じく、家で焼いたふわふわのパン。
どれも店で出しても通用するほどのもので、絶品だ。
レインはあっという間に全部を平らげてしまう。
「ふう……ごちそうさま」
「おそまつさま」
「今日もありがとう。すごくおいしかったよ」
「ふっへっへ、そう言ってもらえると、奥さん冥利に尽きるわー」
嬉しそうにティナが笑う。
彼女はレインの奥さんでありつつ、メイドでもある。
そのため、食事を褒められることはとても嬉しいことなのだ。
「ごちそうさま」
ティナも自分の分を食べて、手を合わせた。
それから食器をシンクに持っていこうとして、しかし、それをレインに遮られる。
「片付けは俺がやるよ」
「え? でも……」
「それくらいはやらせてくれ。なにもしないとか、それはちょっとダメだと思う」
「んー、ウチは気にしないんやけど……まあ、そゆことならお願いしよかな」
「了解だ」
レインは食器をシンクに運び、洗い始めた。
その背中を、ティナはじっと見つめる。
レインと結婚して、数ヶ月。
新婚生活にも慣れて、毎日が幸せだ。
ただ……
「レインってば、ちょっと草食すぎへん?」
一つ不満があるとすれば、夜の生活が少ないことだ。
新婚初夜と、それから数えるほどしか夜の生活をしていない。
レス、ということはないだろう。
レインは紳士だけど、でも、男だ。
それなりの性欲はあるし、ティナのことを女性として見ている。
初夜の時は、それはもう大変なことに……
「……思い返したら、なんか、こう……むう」
ティナは考える。
どうしたら、レインは積極的になってくれるだろうか?
おそらく今は、新婚生活に満足しきっているのだろう。
それで夜の生活のことは考えていないのだろう。
なら、もっと意識させてみてはどうだろうか?
ティナの女性としての魅力を最大限にアピールしてみてはどうだろうか?
「よし」
そんなことを考えたティナは、ニヤリと悪の組織の幹部のように笑い、とある準備を始めた。
そして……
「ティナ、洗い物終わったぞー……って、ティナ?」
レインが洗い物を終えると、ティナの姿が消えていた。
「レイン、こっちやー」
寝室の方から声が聞こえてきた。
なんで寝室?
レインは不思議に思いつつ、寝室に足を運ぶ。
「ティナ? なんで寝室……にぃ!?」
「ふふ」
寝室の扉を開けると、レインの声が裏返った。
それもそのはず。
ベッドの上に、裸同然のティナがいたからだ。
いつものメイド服は脱いで、下着も脱いでいる。
代わりに自分の体にリボンを巻き付けて、大事なところを隠していた。
とはいえ、リボンはリボン。
完全に隠すことができず、かなり際どい格好になっていた。
「な、なにをして……」
「食後のスイーツに、ウチを食べてええよ?」
「え? そ、それは……」
「いらない?」
「……えっと」
「ウチをおいしく食べて、ご主人さま♪」
ティナは甘く、とろけるようにささやいて……
――――――――――
翌朝、ティナはとてもツヤツヤとした様子だったとかなんとか。
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