54話 ソラの妄想
「すぅ……すぅ……」
「すぴかー、ぐにゃー……あらほがげー……」
ソラとルナがベッドで寝ていた。
ソラはすやすやと穏やかな寝息を立てていて……
ルナは、一見すると穏やかだけど、実のところよくわからない寝息を立てていた。
「……ふふっ」
ふと、ソラが笑う。
きっと良い夢を見ているのだろう。
その夢の内容というのは……
――――――――――
「ふんふーん♪」
ソラは鼻歌を歌いつつ、キッチンに立っていた。
片手におたまを持ち、鍋をゆっくりとかき混ぜている。
コトコトと煮込まれているものは謎の物体……ではなくて。
ほどよくとろみがついた、具沢山のシチューだ。
野菜がたくさん入っていて、ほんのりと甘い匂いがする。
それと、ほどよいスパイスの匂い。
食欲を刺激される香りだ。
「よし。我ながら上出来ですね」
あとはパンを焼いて、サラダを作れば本日の夕食の完成だ。
ソラは、そわそわとした様子で時計を見る。
「そろそろ旦那さまが……レインが帰ってくる時間ですね」
にへら、と笑う。
「レインは喜んでくれるでしょうか? ソラの料理を、また、おいしいと言って食べてもらえるでしょうか? ふふ……レインがおいしいと言ってくれると、ソラはすごく嬉しくなります。心がぽかぽかします」
優しい笑みを浮かべて、ソラは胸元に手をやる。
そうしていると、心臓の鼓動が少し強くなったような気がした。
トクン、トクン……と鳴る。
それは、温かい想いが原動になっているのだと思う。
「それにしても……」
そこでソラは顔を赤くして、自分の姿を鏡で見た。
ソラは……
エプロン一枚だけという、とんでもない格好をしていた。
「これは……やはり、やりすぎではないでしょうか……?」
フリルのついたエプロン。
かろうじて前は隠せているが、横から見たら色々ときわどい。
後ろから見られたら完全にアウトだ。
俗に言う裸エプロン。
恋と欲にまみれた者の最終兵器だ。
「こういう格好をしたら、世の旦那さまは喜ぶと、とある本に書いてましたが……うぅ、やはり、やりすぎたかもしれません」
隠せているようで隠せていない。
そんな微妙な状況が羞恥心を煽る。
とはいえ、自分でやっているのだから、ある意味で自業自得なのだけど。
「やはり、いつもの服に着替えてきましょうか? レインなら、特に気にすることは……ですが、今日は、ソラとレインが結婚して一年目の記念日。なにかこう、インパクトに残るようなお祝いをしたいです」
そのための裸エプロンだ。
この姿でレインを迎えるのだ。
あなた、おかえりなさい。
ごはんにする? お風呂にする? それとも……ソ・ラ?
「きゃーきゃー!!!」
ピンク色の妄想を繰り広げたソラは、一人、勝手に悶えた。
家の中、裸エプロンの少女が一人。
頬を染めて、ニヤニヤと悶えている。
ある意味、事案だ。
もしも彼女の妹が見たら、騎士団に通報していたかもしれない。
それくらいに、色々な意味で危ない光景だった。
「……」
ふと、ピタリとソラの動きが止まる。
顔も真顔に。
「やっぱり……よくよく考えたら、恥ずかしくなってきましたね」
あれこれと妄想したものの……
冷静に考えると、とても恥ずかしいことをしようとしている。
さすがのレインも引いてしまうかもしれない。
引いてしまうだけならまだいい。
逆に心配されてしまったらどうしよう?
そんな格好をして大丈夫か? ……とか。
「……なんというか、そんなことになったら死んでしまいそうですね」
レインと結婚できた。
その幸せでテンションが上がっていたソラだけど……
一人になったことで急に落ち着いて、冷静になったらしい。
たらりと汗を流す。
「やめておきましょう。これ、やっぱりものすごく恥ずかしいです」
ため息を一つ。
ソラはエプロンを脱いで、元の服に着替えようと……
「ただいまー」
「え?」
ガチャリと扉が開いて、レインが姿を見せた。
「ソラ、今帰ったよ。ギルドの先輩から……おみやげ、を……もら……った?」
「……」
ほぼほぼ裸のソラを見て、レインが固まる。
ソラも固まる。
「……」
「……」
ひたすらに気まずい沈黙。
ややあって、
「ひゃああああああああああぁっ!!!?」
……ソラの羞恥の悲鳴が街に届くほど響いたとか響かなかったとか、そんな話。
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