51話 結婚式
「お買い物♪ お買い物♪ おいしいお魚あるかな~?」
「ちょっとカナデ、あまりはしゃがないでよ。子供っぽいわよ」
「我のように落ち着くといいのだ」
「ルナは、落ち着くという言葉とは正反対だと思いますが」
「せやなー。一番落ち着いとるんは、ニーナやない?」
「ふぇ……そんなこと、ないよ?」
今日はみんなで買い物だ。
といっても、たくさんの荷物を買うわけじゃない。
前日まで雨が続いていて、ずっと外に出られなかったので……
散歩も兼ねてみんなで外に出た、というわけだ。
「良い天気だな」
「だよね! こんな日は、おいしいお魚料理でも食べたいなー」
「あんた、魚のことしか頭にないわけ?」
「カナデだから仕方ないのだ」
「仕方ありませんね」
「なんか不名誉な感じの納得のされ方!?」
「カナデ……だから、仕方ない……ね」
「ニーナまで!?」
「あはは」
みんなと一緒にいると楽しい。
笑顔が絶えない。
こんな日がずっと続くといいな。
そのために……
「ん?」
ふと教会が目に入った。
なにやらたくさんの人が集まっている。
笑顔なところを見ると、事件っていうわけじゃなさそうだけど……
「にゃんだろ、あれ?」
「むう? たくさんの人間が集まっているな」
「あ……綺麗な、人」
ほどなくして教会の扉が開いて、男女が姿を見せた。
男性は白の礼服を着て……
女性は、同じく白のドレスで身を飾っている。
「結婚式みたいだな」
「へぇ、あれが」
「とても綺麗ですね」
みんなは結婚式を見るのは初めてらしく、興味津々という様子だった。
カナデやタニアは、目をキラキラと輝かせている。
最強種でも女の子。
やっぱり、こういうことには興味があるみたいだ。
「ねえねえ、レイン。見学していこう?」
「確か、人間は最後にブーケを投げるのよね? それを巡って戦うのよね?」
「微妙に間違った情報はどこから……?」
ブーケは受け取るものであって、戦って奪い取るものじゃない。
そう説明するのだけど、みんな、いまいち理解していない様子で小首を傾げるのだった。
「ええか? ニーナ。ブーケっちゅーもんは……」
「うん」
一方、ティナは、ニーナが間違った知識を得ないようにしっかりと教育をする。
みんなにもティナの講義を受けてもらって……
「うにゃー……私の身体能力なら、誰よりも早く、空中でキャッチできるはず!」
「ふふん。あたしには翼があるわ。いざとなればブレスを吐いて牽制できるし、勝ちは確定ね」
「ここは転移魔法で……いえ、風魔法でブーケを操った方がいいでしょうか?」
「逆転の発想なのだ。みんなを魔法で吹き飛ばした後、悠々と取ればいいのだ」
「……」
ものすごくダメな方向で考えを巡らせていた。
ダメだ、これは。
みんな、話を聞いてくれなさそうだ。
カナデなんて狩りをする目になっている。
これはどうしたら……?
「おや」
ふと、聞き覚えのある声が。
振り返るとステラの姿があった。
「レインじゃないか。それと、ニーナとティナも」
「こん……にちは」
「ああ、こんにちは」
ニーナに挨拶をされたステラは、にっこりと笑い挨拶を返した。
それから、不思議そうに小首を傾げる。
「カナデ達もいるのだな。しかし……なにやら様子がおかしいように見えるが?」
「いや、えっと……気にしないでくれ」
どうやってブーケを手に入れるか真剣に考えている……なんてことは言えず、ついつい言葉を濁してしまう。
幸いというべきか、ステラはさほど気にしなかったようだ。
こちらに視線を戻す。
「久しいな。最近はどうしているのだ?」
「特に変わりはないかな? のんびり冒険者をやっているよ」
「ふむ。レインがのんびり……実際は、とんでもないことをしていそうだな」
「どうしてそうなるんだ?」
「レインだからな」
「レインの旦那やからなー」
ステラだけではなくて、ティナにまで言われてしまう。
解せぬ。
「ステラは街の見回りか?」
「ああ。ホライズンもだいぶ落ち着いたが、まだまだ騒動の火種は消えていないからな。それに……」
ステラはちらりと教会を見る。
「今日は結婚式があるからな。トラブルには気をつけないといけない」
「結婚式とトラブル、なにか関連が?」
「雰囲気にあてられて騒ぎを起こす者が多くてな。そういう者が現れた時のために、この辺りの警備を強化しているのだ」
「「「うっ」」」
ステラの台詞が聞こえたらしく、今まさに騒動を起こそうとしていたカナデ達がビクリと震えた。
「ちなみに、そういう人を見つけたら?」
「もちろん逮捕だ」
「「「うっ」」」
ステラがぴしっとした顔で言い放ち、カナデ達が再び震える。
「祝いの場とはいえ、度を越した騒ぎは他の人に迷惑をかけてしまうからな。しっかりと対処する」
「どんな風に?」
「そうだな……やらかした度合いにもよるが、基本的に、厳重注意。それと、毎日の奉仕活動を一ヶ月というところだろうか」
「「「……」」」
その場面を想像したらしく、カナデ達は顔を青くした。
ブーケ争奪は諦めてくれた様子だ。
「ステラ」
「うん?」
「ありがとう」
「なぜ礼を……?」
こうして、ステラの自覚のない活躍によって惨劇は未然に防がれたのだった。




