44話 偽物参上!・その1
街の灯りが消えて、人の姿がなくなった深い夜。
一人の若い女性が路地を駆けていた。
「はっ……はっ……はっ……!」
息を切らして。
汗をたくさん流して。
それでも足を止めない。
その理由は……
「おいおい、どこまで逃げるつもりだぁ?」
「ひゃひゃひゃ、俺達から逃げられると思うなよ」
女性は暴漢に追いかけられていた。
悪政を敷いていた領主が追放されたとはいえ、ホライズンの治安は完璧ではない。
未だろくでもない者は残っていて、このように悪事を働いている。
ステラ率いる騎士団が秩序を守ろうとしているが……
それでも、手が回らずに、各地で悪事を許してしまっているのが現状だ。
「きゃあ!?」
「ほぅら、捕まえたぜぇ?」
「俺らと良いことしようぜ、きゃははははは!」
ついに女性は暴漢達に捕まってしまう。
必死に逃げようとするが、その場に組み伏せられてしまい、ほぼほぼ身動きができない。
どうしてこんなことに?
女性は涙をこぼす。
しかし、それを見て暴漢達は喜ぶだけだ。
下品な笑みを浮かべつつ、女性の服へ手を伸ばして……
「まてい!」
「「!?」」
夜の闇を切り裂くような鋭い声。
振り返ると、月明かりに照らされた人影が。
「な、なんだてめえは!?」
「騎士団か!?」
動揺する暴漢達に向かい、人影は強く言い放つ。
「貴様らに名乗る名前はないっ!!!」
――――――――――
「……と、いう感じで、今、ホライズンに謎のヒーローが現れているんですよ」
冒険者ギルドに足を運んでみると、そんな話をナタリーさんに聞かされた。
「へぇ、謎のヒーローか」
「かっこいいにゃ!」
一緒にギルドにやってきたカナデは、子供のように目をキラキラと輝かせていた。
こういう話が好きなのだろうか?
「でも、女性に被害がなくてよかった」
「ふふ」
なぜか、ナタリーさんが小さく笑う。
「最初に出てくる感想がそれなのは、シュラウドさんらしいですね」
「そうかな?」
「普通は、謎のヒーローの方を気にするのでは?」
「そっちも気になるけど……」
それ以上に、被害に遭ったという女性の方が心配だ。
無事だったとはいえ、心に傷を受けているかもしれないからな。
「それで、どうしてそんな話を?」
ただの雑談をするにしては、ナタリーさんの表情が真剣なものだった。
「謎のヒーローについてなのですが……少々、シュラウドさんにお願いしたいことがありまして」
「お願い?」
「謎のヒーローの正体を突き止めていただけませんか? 可能なら、ギルドに連れてきてほしいです」
「それは構わないけど……どうして? 言い方はアレだけど、正義の味方なんだろう?」
「そうですね。謎のヒーローによる悪事は聞きませんし、いずれも街の人を助けたという話ばかりです」
「それなら……」
放っておけばいいのでは?
そう言おうとしたところで、ナタリーさんが困った顔に。
「彼がしていることは悪いことではないのですが、所属不明なのが問題でして……正体不明というのも困りものですね」
「そっか……それもそうだよな」
正義の味方だとしても、謎なのが困る。
騎士団を無視して、勝手に治安活動をするのは微妙なゾーンだ。
冒険者なら問題はないのだけど……
そうでないと、勝手な活動をする人が続くかもしれない。
あと、本当に正義の味方なのか、少し不安なところだ。
なにか他の目的を隠しているかもしれないし……
正義のためではなくて、たまたま暴漢を倒していただけかもしれない。
いずれにしても、本人から話を聞きたいと思うのが当然だろう。
「なので、できれば穏便に……難しいのなら、強引にでも連れてきていただきたいのですが……」
「わかった。俺達でよければやるよ」
「ありがとうございます!」
よほど困っていたらしく、ナタリーさんがぱあっと笑顔になった。
「他に声はかけたのか?」
「いいえ。今のところ、シュラウドさん達だけですね。というか、まずはシュラウドさん達にお任せしたいと……」
「それはどうして?」
複数の冒険者で当たる方が効率的だと思うんだけど……
「それが、その……」
ナタリーさんが気まずそうな顔に。
迷うような間があって、困った顔で告げる。
「実は……謎のヒーローは、その……ホライズンの英雄レイン・シュラウドだ! って名乗っていまして」
「「……」」
俺とカナデは顔を見合わせて、
「「えぇ!?」」
ひとまず、驚きの声を響かせるのだった。




