42話 休憩
「こんにちは、ソラです」
家のリビングで、ソラはぺこりと頭を下げた。
「暑い日が続いていますね。ただ、少しは落ち着いてきた感じでしょうか? こうなると、秋の到来を実感しますね」
ソラはとてとてと歩いて、リビングに設置されたソファーに座る。
ソファーの前に置かれているローテーブルには、いくらかの本が積まれていた。
「秋といえば、なにを思い浮かべるでしょうか? 食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋……色々とありますね。みなさんはどんな秋ですか? ソラは、読書の秋ですね」
そう言って、ローテーブルに積まれていた本を手に取る。
「そんなわけで、今日は、ソラのオススメの本を紹介したいと思います」
最初に手に取った本のタイトルは、『銀の刃』というものだった。
「こちらは、とある勇者の活躍を描いた英雄譚ですね」
歴代勇者の中で、ギンという名前を持つ者がいた。
彼は戦闘能力だけではなくて、知謀に長けていた。
剣で戦うのではなくて、その頭脳で戦う。
ギンの用いた戦略は当時の常識をひっくり返すようなもので、絶望的な戦力差がある戦いを幾度となく勝利に導いてきた。
彼の持つ知略が、当時の人類を勝利に導いたといっても過言ではない。
後世では、ギンの戦略が用いられるようになったという。
「勇者ギンの武器は、強い力ではなくて、優れた頭脳だった、という話ですね。そんな戦略を思いつくなんて。この戦略は彼が考えたものだったのか……などなど、精霊族であるソラも、読んでいて感心させられることが多い本でした」
ちなみに、『銀の刃』英雄譚であるものの、子供ではなくて大人が買うことが多い。
戦略書として用いられるほど完成度が高いため、子供には難解なのだ。
ソラは精霊族でとても賢いため、問題なく読み解いている。
「次にオススメする本は、『くまのルーくん』です」
二冊目を手に取る。
その表紙には、かわいらしくデフォルメされた熊が描かれていた。
タイトルはひらがな。
中を開いてみると、文字はとても大きい。
子供向けの絵本だった。
「こちらは絵本になりますね。物語を簡単に説明すると……」
子熊の『るー』は、好奇心旺盛な男の子。
色々なものに興味を示して、日々、活発に過ごしている。
そんな中でも、るーは食べ物に強い興味を持っていた。
おいしいものを食べたい。
あっと驚くようなものを食べたい。
見たことのないものを食べたい。
食欲旺盛なるーは、ある日、伝説の食べ物があることを知る。
この世のものとは思えないほどおいしく、舌の上でとろけて消えてしまうという。
その話を聞いたるーは、伝説の食べ物を手に入れる旅に出る。
山を超えて、海を超えて。
犬や猫、たくさんの仲間を加えて。
そうした旅の末にるーが見つけたものは……
「……というような感じで、よくある内容の絵本です。ありがちと言えばありがちですが、この本のすごいところは、あっと驚くどんでん返しがあるところです。その衝撃のラストに、誰もが驚いて、涙することでしょう。ただの絵本と侮ることなかれ。これは、一種の芸術ですね」
そう語るソラは、けっこう興奮している様子だった。
彼女もまた、衝撃のラストに引き込まれて……
そして、涙を流した者の一人なのだろう。
「最後に紹介するのは、こちらです」
ソラは三冊目の本を手に取る。
「『向日葵の誘惑』です。これは、恋愛小説ですね!」
どことなく興奮した様子のソラだった。
「主人公は、とある教師です。子供達にものを教えることを生業として、日々、仕事に励んでいるのですが……ある日、一人の生徒と出会います。そう! 彼こそが、この物語のヒロインなのです!」
彼と言いつつ、ヒロインと呼ぶ。
その矛盾はどういうことか?
しかし、ソラは気にした様子はなくて……
さらにヒートアップした様子で言葉を続ける。
「突然現れた、まったく言うことを聞かない問題児。しかし、その子供の言うことは、不思議と主人公の胸に刺さる。反発しながらも惹かれ合う二人。教師と生徒の禁断の愛! 年の差の恋愛! 子供が大人を責めるという逆転の発想!!!」
ぐっと、ソラは拳を強く握る。
「そう! これは、とても儚く美しい恋愛なのです!!!」
「姉ぇえええええ!!!」
これ以上我慢できないといった様子で、ルナが割り込んできた。
「さっきから黙って聞いていれば、いったいどんな本を紹介しているのだ!?」
「純愛ものですが?」
「否定しない! 否定はしないが!?」
ぐぬぬぬ、とルナがうめく。
「その本には、我らが見てはいけない、○○○なシーンがあるではないか!?」
「そうですね」
「さらりと肯定された!?」
「必要なシーンです。それがあることで、より、二人の愛が伝わるんですよ」
「開き直られた!?」
ついつい怯んでしまうルナに、ソラが悪い笑顔を浮かべてみせる。
「色々と言っていますが、ルナも興味ありますよね?」
「うっ。そ、それは……」
「素直に認めてください。そうすれば、こちらを貸しましょう」
「うぐぐぐ……」
「さあ、ソラと一緒に芸術を堪能しましょう」
「わ、我は……」
「ほい、そこまでや」
ふわりとティナが現れて、念動力で薄い本を取り上げてしまう。
「あぁ!?」
「我の本が!?」
瞬時に読む気になっていたルナだった。
「検閲や」
「なにをするのですか!?」
「我の本! 差別なのだ!」
「いやな、別に内容について文句を言うつもりはあらへんよ? 誰かに迷惑をかけるわけやないし」
「「なら!」」
「でも、これはダメや。二人は、まだ14歳やろ? この本は、18歳以上や」
「「……」」
これ以上ないほどの正論に、ソラとルナは反論できず黙り込んでしまう。
ただ、未練がましく取り上げられた薄い本を見ている。
「ってなわけで、没収や」
「「……うぐぅ……」」
「こういうのを読みたいなら、早く大人になることやな」
「早く……」
「大人になりたいのだ……」
がっくりと膝をついてうなだれるソラとルナだった。
しばらく週一回の更新になります。




