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37話 とある少女の思い出・その6

「オフィーリア姉さま、ごはんの時間ですわ」

「はい。こちらの洗濯物を畳んだら行きます」

「でしたら、お手伝いいたしますわ」


 ……魔王との戦いで、大半の天族が死んでしまった。

 残ったのは女子供。

 あるいは、戦う力を持たない者ばかり。


 残った天族達は、新しい家族を形成するかのようにして、身を寄せ合い一緒に暮らしていた。


 イリスとオフィーリアも、同じ家で一緒に暮らすことにした。

 元々、姉と妹のように仲が良い。

 一緒に暮らしたとしても、なにも問題はないのだけど……


「ありがとうございます、イリス。おかげで、早く片付きました」

「でしたら、ごはんにいたしましょう」

「そうですね。ただ……」

「ただ?」

「……どうして、私の手を掴んでいるのでしょうか?」


 オフィーリアの手は自分のもの。

 そんな感じで、彼女の手が空くと同時に、イリスは手を繋いだ。


 指を絡ませて、ぎゅっと繋いでいる。

 まるで恋人だ。


「ただのスキンシップですわ」

「スキンシップ……ですか?」

「そう、スキンシップです」


 なるほど。

 スキンシップなら仕方ない。


 そうやって納得してしまうあたり、オフィーリアはかなり変わり者だった。


 二人は手を繋いだままリビングへ。

 テーブルの上に、二人分のパスタが用意されていた。

 イリスが作ったものだ。


 たっぷりの野菜と濃厚なチーズを絡めている。

 我ながら良い出来ではないか?

 イリスは自慢そうな顔になって、


「美味しそうですね」

「ですわよね!?」


 オフィーリアにそう言われて、さらに得意そうな顔になった。

 ドヤ顔だ。


「では、いだきます」

「いただきます」


 席について、昼ごはんの時間に。


 二人で食べるごはんはおいしい。


 以前は、もっとたくさんの人がいた。

 今はオフィーリアだけだけど……

 それでも、幸せなものは幸せだ。


 イリスはにっこりと笑い、パスタを食べていく。


 ただ、彼女は気づいていない。

 オフィーリアに精神的に依存しつつある。

 仕方ないといえば仕方のないことではあるのだけど……

 このままだと、あまり良くないことになってしまうだろう。


 本来ならオフィーリアがたしなめるべきなのだけど、彼女は色々とズレているため、イリスが自分に依存しつつあることに気づいていない。

 仮に気づいていたとしても、仕方ないですね、と受け入れていただろう。


「ところで……」


 パスタを食べ終えたところで、オフィーリアが口を開く。


「イリスは、コルヌとアルヌを知りませんか?」

「コルヌとアルヌですか?」


 友達ではないけれど、顔見知りの間柄ではある。

 双子の兄弟で、やんちゃ盛りの少年の天族だ。


 以前、イリスは、その双子にスカートをめくられたことがある。

 あの時は、怒りのあまりクレーターを乱発してしまった。

 若気の至り、というやつだ。


「彼らのことなら知っていますが……」

「失礼。聞き方を間違えました。二人がどこにいるか、知りませんか?」

「確か、二人は第三居住区に移転したと思うのですが?」

「……なるほど」

「コルヌとアルヌがどうしたのですか?」

「最近、姿を見かけないらしいのです」

「え」


 不穏な話に、イリスは顔をこわばらせる。

 そんな妹の不安を取り除くように、オフィーリアは優しく言う。


「大丈夫ですよ。姿を見かけないといっても、今朝からのことなので。さきほど、コルヌとアルヌの同居人が訪ねてきたので」

「なるほど」

「おそらく、どこかで遊んでいるのでしょう」

「そうですわね。あの二人は、じっとしていることができない性格ですから」


 そう言いつつ……

 イリスは嫌な予感を覚えるのだった。




――――――――――




 その日から、色々なことが変わっていった。


 コルヌとアルヌが行方不明になり……

 さらに、数日おきに別の天族が姿を消していく。


 一方で、人間達が不満を次々と並べるようになった。


 魔族との戦争で、人間達も大きな被害を受けていた。

 国として成り立つかどうか、ギリギリのところまで衰退して……

 これ以上転落しないように、なんとか踏みとどまっている。


 ただ、魔族の脅威はなくなっても魔物の脅威は残っている。

 その対処を天族に求めているのだけど……

 天族も天族で、絶滅の危機に瀕していた。

 今までのような大きな活動をすることはできず、自分達の世話で精一杯だ。


 それでも、戦える者は使命を果たすために人間に協力していたが……

 いつの頃からか、天族と人間の歯車は狂い始めていた。


 どうしようもないほどに。

 致命的なまでに。

 二つの種族はすれ違い、終焉へと駆けていく。

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◇◆◇ お知らせ ◇◆◇
既存の作品を大幅にリファインして、新作を書いてみました。

娘に『パパうざい!』と追放された父親ですが、辺境でも全力で親ばかをします!

こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

― 新着の感想 ―
[良い点] お互いの種族のこの行き違いがイリスを当時の性格にしてしまったのか。 人種ももっとどうにかならなかったのだろうか・・・。 やはり、頼りすぎると堕落してしまうということなのか。
[一言] ここは最強の少女達ともふもふライフをする場所ですぞ? この続きは駄目よ、駄目なのよ!! ぴぇんってなるから駄目なのよおおおぉぉぉおお!!!
2022/08/23 12:18 退会済み
管理
[一言] 天族にそんな真似をするんだー…… みんなソラの料理は持ったな!!仁義の分からねえボケどもに食わs ソラ「イクシオンブラスト^^」 ヤッだばああああああああ!!?><
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