34話 とある少女の思い出・その3
イリスは争いを好まない性格だ。
戦うことよりも、花を育てる方が好き。
なので、リリーナと一緒に戦い、その力になることはできない。
そんなことをしたら、逆に足を引っ張ってしまうだろう。
「わたくしは、わたくしにできることでリリーナお姉さまの力にならないと!」
そんなことを思いついて、イリスは家に戻った。
自分の部屋ではなくて、入ったらいけない、と注意されている倉庫へ向かう。
「……誰もいませんわね」
幸い、家族は出かけているみたいだ。
都合が良い。
イリスは倉庫の扉を開けようとして……しかし、結界で閉ざされていることに気がついた。
「もう、どうして結界なんて。泥棒なんて、ここにはいませんのに」
父と母の用心深さに呆れてしまう。
もっとも、今まさに泥棒の真似事をしているイリスが言えたことではないのだが。
「ですが、この程度の結界なら……」
戦いよりも花が好きなイリスではあるが、実は、その才能は誰よりも優れている。
順調に成長すれば、いずれ、里で一番の実力者になるだろうと言われていた。
そんなイリスにかかれば、結界の解除なんて朝飯前だ。
魔力を集中して……
ほどなくして、カチリと鍵の外れる音がした。
「よし、ですわ。これで中に……」
「入ってどうするのですか?」
「ぴゃあ!?」
突然、背後から響いてきた声に、イリスは、文字通り飛び上がって驚いた。
慌てて振り返ると、いつも通りの無表情のオフィーリアが。
「ど、どどど、どうしてオフィーリア姉さまがここに!?」
「妙な顔をして走るイリスが見えたので、追いかけてきました」
「あ、足音なんてしませんでしたが……?」
「翼がありますので、隠密行動です」
ぼーっとしているようで、オフィーリアは抜け目がない。
なにかあると踏んで、こっそりイリスを尾行したようだ。
「それで、このようなところでなにをしているのですか?」
「そ、それは……その、散歩を……」
「家の中を? 入ってはいけないと言われている、倉庫の鍵を開けて?」
「う……」
怒られる。
イリスは反射的に身をすくめて、目を閉じた。
……しかし、いつまで経ってもなにも起きない。
恐る恐る目を開けると、
「やれやれですね」
オフィーリアは、どこか優しい顔をしていた。
「イリス」
「は、はい」
「私は、あなたがなにも理由なく、言いつけを破る子だとは思っていません。倉庫に入ろうとしたのは、なにか理由があるのでしょう? それを話してくれませんか」
「それは……」
「お願いします」
「……わかりました」
もう一人の姉がここまで言うのだ。
逆らうことはできず、イリスは全部を話すことにした。
「その……リリーナお姉さまのために、なにかしたくて」
「勇者の?」
「はい。もうすぐ戦いに行くらしく……ただ、わたくしでは一緒に戦うことはできません。わたくしは、なにもできず、弱いですから」
「……」
オフィーリアは、内心で、そんなことはないと思う。
イリスは才能がある。
ただ……
虫も殺せないような優しい性格のため、本来の才能を発揮できないでいた。
もしも。
なにかしら心境の変化があって、力を欲するようになれば、とんでもないことになるだろう。
そんなことを考えるオフィーリアだけど、すぐにそれは否定した。
この優しい女の子が、力を求めて暴れるような事態なんて起きるわけがない……と。
「だからせめて、リリーナお姉さまのためにお守りを作ろうと……そう思いまして」
「お守りを? でも、なぜ倉庫に?」
「ただのお守りではなくて、実用的なものがいいと思い……その材料が欲しいのですわ」
「なるほど」
イリスが作ろうとしているのは、付与価値のあるお守りだ。
持っているだけで防御力が上がるとか、結界が展開されるとか、そういうものだろう。
ただ、そんなものを作るとなれば、それ相応の材料が必要となる。
そのため、家にある倉庫に目をつけたのだろう。
天族の家の倉庫には、いざという時に備えて、大体、レアアイテムが眠っている。
「この家の持ち主はイリスの両親であり、家にあるものもまた、イリスの両親のものなのですよ? それを勝手に持ち出すということは、窃盗です」
「うっ……」
「イリスがそのような子に育ってしまうなんて、私は悲しいです。両親も悲しむでしょう」
「うううぅ……」
「……ですが」
やれやれ、とオフィーリアがため息をこぼす。
「事前に話を通しておけば、なにも問題はありません」
「え……?」
「私からイリスの両親に話をしておきましょう。それまで、待ってもらえますね?」
「あ……ありがとうござます、オフィーリア姉さま!」
泣きそうだった顔を一転させて、イリスはオフィーリアに笑顔で抱きついた。
そんな妹の頭を撫でるオフィーリアは、やっぱり無表情だけど……
ただ、どこか優しい顔をしているような気がした。
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