231話 遭難……の終わり
この島の主と思われる巨大なイノシシの討伐に成功した。
これで後方の安全を確保できた。
それだけではなくて、大量の素材を入手。
これで、島からの脱出船の製作も捗るだろう。
大量の肉も入手できたから、食料に困ることもない。
その日の夜は肉パーティーをして……
それでもたくさんの肉が余るため、そこは保存食として加工。
そうして、嵐のような一日が終わった。
このまましっかりと準備をして、作業をしていけば、きっと島から脱出することができるだろう。
そう思っていたのだけど……
――――――――――
「レインレインレイン、レイーーーーーンッ!!!」
朝。
洞窟の家で寝ていると、いきなり騒々しくなった。
何事かと目を覚まして体を起こす。
「……カナデ?」
「大変! 大変だよ!?」
ものすごく慌てていた。
その慌てっぷりが伝染したのか、一瞬で目が覚める。
「どうしたんだ!? また主のようなヤツが? それとも、まさか突発的な嵐が?」
「う、ううん。そういうことじゃないよ。ただ、ものすごく大変というか……とにかく来て!」
「お、おぉ……?」
カナデに手を引かれ、外に。
そこにはみんなが揃っていた。
一様に微妙な表情をしている。
悪いことがあった?
でも、それにしてはあまり悲壮感がない。
なんていうか……
メガネをなくして探していたら、自分の頭の上にありました、っていうような感じだ。
「レイン、見ていてね?」
カナデが神妙な顔をして、少し離れたところにある木の前に立つ。
見たところ、なんてことのない普通の木だ。
「すぅ……」
カナデは拳を構えて。
息を整えて。
「えいっ」
カナデパンチ!
なんと、木は根本からへし折れた!
「……え?」
目の前の光景をすぐに理解することができず、フリーズしてしまう。
猫霊族のカナデなら木を拳で折るくらい簡単だ。
ただ、この島は、なぜか力を減衰させる効果があり……
「……もしかして、力が戻った?」
「うん、そうみたい」
「ってことは……みんなも?」
「「「……」」」
みんながこくりと頷いた。
「試しに、我は超級魔法を空に放ったのだが、問題なく詠唱できたぞ」
「あれ、驚くから止めてほしいんやけど……」
「びっくり」
「愚妹がすみません……」
「私は、あまり気にならなかったな。騎士団にいれば、そのようなことはちょくちょくある」
「あれは、ホライズン限定な気もしますけどね、あはは……」
試しに、という感じで、ニーナが転移門を生成してみせた。
「確かに……でも、どうしていきなり?」
「思うに」
タニアがピンと指を立てた。
「あのイノシシを倒したからじゃないかしら?」
「どういうことだ?」
「イノシシは、この島そのものを縄張りとしていた。そして、全てを従えていた。つまり、意識的か無意識かはわからないけど、結界のようなものを展開していたのよ。中にいるものを従えて……それと、力を奪う」
「それは……」
「そうして奪った力は自分の成長に使う。相手は弱体化するから、脅威ではなくなる。一石二鳥ね。あたし達は、そんな厄介な場所に遭難してしまった、というわけね」
「そうか……そうなのかもしれないな」
大陸から離れた、人の手がまったく入っていない孤島。
そんなところなら、独自の生態系が築かれていて……
そして、独自の進化を遂げた生き物がいてもおかしくはない。
すごいな。
まさに自然の神秘だ。
歴史上、初めての発見かもしれない。
このことを発表すれば、学者達は大騒ぎするだろう。
……まあ、それはともかく。
「力が戻った、っていうことは……」
「そう」
タニアが神妙な顔で頷いた。
少し離れて……
ドラゴン形態に戻る。
『こんな感じで、元に戻れるから、あたしに乗って簡単に脱出可能よ』
再びタニアが人型に戻る。
「にゃー……がんばって船を作っていたのに、まるっきり意味がなくなっちゃたんだよ……」
「たい……へん」
「脱出できることは嬉しいのですが、なにやらとても複雑な気分です」
「……確かに」
苦笑しつつ、頷いた。
あれだけ苦労したのに、という思いはある。
でも、みんなで一致団結してがんばってきた。
それは、いい思い出になるだろう。
「まあ……そうだな。せっかくだから、当初の予定通り、船を使って島を出るか?」
「え?」
「いつでも脱出できる、ってわかったから、緊張感とかはないけど……バカンス感覚で楽しもう。このまま船を作って戻る……それはそれで楽しいと思う」
「それは……うん、そうだね! 私は賛成!」
「あたしも」
「うむ、良い案なのだ」
「なら、製作は引き続きがんばらないとですね」
「がん……ばる」
「私達も、できることをやりますね」
「ああ。皆で力を合わせよう」
「「「おーーーっ!!!」」」と、みんなの声が重なる。
……こうして、大きなトラブルの起きた旅行は終わった。
遭難というとんでもないことになったものの、振り返れば楽しくもあり……
なんだかんだ、良い『夏』を過ごすことができたと思う。
たまには、こんな休みの過ごし方があってもいいかもしれない。
贅沢で。
ちょっと大変だけど。
でも、とてもいい感じだった。
とはいえ。
一つだけ欠点があって、みんなはそれが不満で……
「「「早く帰ってお風呂に入りたいっ!!!」」」




