228話 遭難その13
その後……
しばらくして、タニアとステラも戻ってきた。
かなり疲弊した様子だ。
ステラは普通の人間だから仕方ないだろうが……
タニアも、けっこうな疲労を見せていたのは意外だ。
最強種で……
しかも体力にも魔力にも優れている竜族だから、ちょっとやそっとのことではここまで疲れたりしないんだけど。
言い換えれば、そこまで疲れるような事態が起きた、ということか。
このペースでいけば、そう遠くないうちに船が完成して、島から脱出できるはずなのに……
嵐といい、トラブルが絶えないな。
力だけではなくて、幸運も吸い取られているような気がした。
ひとまず、全ての作業は中断。
みんなを集めて、話をすることに。
――――――――――
「私達、探検隊は見た……!」
カナデが、妙な臨場感を乗せて言う。
その迫力に飲まれたのか。
それとも、場の雰囲気に飲まれたのか。
みんながごくりとする中、話は進む。
「私達、いつものように狩りに出て山に向かったんだけど……おかしいなー、おかしいなー。その日は、なんかいつもと様子が違ったんだよ……ね、ステラ?」
「ああ、そうだな。なかなか獲物が見つからないだけではなくて、ようやく見つけた獲物もやけに警戒心が高く、すぐに逃げられてしまう。なんというか……そう。山全体が怯えているような気がした」
「ま、だからって、あたし達は狩りを止めなかったけどね。よくわからないことで止めていたら、すぐにごはんがなくなっちゃうもの」
「それで、どんどん先に進んで行ったんだけど……その時!!!」
カナデが大きな声を出して、一部、ニーナやナタリーさんがびくりと震えた。
怪談みたいなノリはいいから。
普通に話してほしいんだけどな……
まあ、こういうノリも必要なのか?
こんな時でも『楽しむ』ことを忘れてはいけないと思う。
「あいつが……『主』が現れたんだよ!!!」
「『主』っていうのは? カナデ達は、前々からそいつのことを知っていたのか?」
「ううん、そんなことはないよ」
「それっぽいヤツだったから、あたし達が、勝手にそう呼んでいるだけ」
思っていたよりも適当な理由だった。
「ただ、『主』という名前にふさわしい相手だったな」
「ステラも……いったい、どんなヤツだったんだ?」
「見た目はイノシシに近いな。牙が大きく、槍のように鋭いけれど……その他は、だいたい、イノシシと同じだと思う」
「ただ、大きさが桁違いなんだよ……」
「あいつ、そこらの家と同じくらい大きかったわ」
「……マジか?」
ついつい、問い返してしまう。
そこらの家と同じ、っていうことは……
二階建てと考えると、7メートルから8メートルくらいか?
そんな巨大サイズのイノシシなんて、聞いたことがない。
魔物でも聞いたことがない。
この島は、まったく人の手が入っていない様子だった。
だから、独自の生態系が築かれて……
そんな中で進化した、特殊な個体なのかもしれないな。
「そんなヤツがいたのか……今まで、よく遭遇せずに済んだな」
「けっこう奥にいたから、なかなか表には出てこないんだと思うよ」
「本来の力が出せるなら楽勝だけど……むぅ」
タニアが不満そうに言う。
「というか、なぜ、戦うこと前提で話をしているんですか? ソラは不思議です」
「うむ。そやつは脅威だろうが、しかし、奥に引きこもり出てこないのなら、放っておけばよいのではないか?」
「せやなー。さわらぬ神に祟りなし、やね」
「……でも」
ふと、ナタリーさんがひらめいた様子で言う。
「その主をどうにかすることができれば、色々な面で役に立つと思いますよ?」
「どういうことなのだ?」
「食料問題は、ほぼほぼ解決するでしょうし……なによりも、その素材がすごく役に立つと思います。皮や骨などを使って船を作れば、とても頑丈で快適なものになるかと」
「確かに……」
それだけ巨大なイノシシなら、皮も骨もさぞかし頑丈だろう。
それを基礎にして船を作成すれば、今まで予想していた以上に強固なものを作ることができるはず。
「イノシシ、と……戦う?」
ニーナの問いかけに、しかし、すぐに頷くことはできない。
リスクを犯してでも、リターンを求めて戦うべきか?
それとも、安全を選ぶべきか?
今、重要な選択が迫られているような気がした。




