21話 はじめてのおつかい・その5
無事に香辛料を買うことができた。
香辛料が詰まった袋を亜空間に放り込み、再び買い物リストを見る。
「次は……果物」
りんご、パイナップル、オレンジ……色々な果物がリストに並べられていた。
食後のおやつだろうか?
じゅるりと、ニーナはよだれを垂らしてしまいそうになる。
普段はおとなしいが……
なんだかんだで育ち盛りの子供なのだ。
食べ物に対する執着は強い。
「果物屋さん……どこ、だろう?」
同封されている地図を見る。
果物屋は遠く、また、入り組んだ路地の先にあった。
「……」
大丈夫だろうか?
無事に到着することができるだろうか?
そこはかとない不安が。
「だい、じょうぶ」
ニーナはそう自分に言い聞かせて、歩き出した。
――――――――――
迷った。
「……ここ、どこ?」
気がつけば薄暗い路地に。
キョロキョロと周囲を見回すけれど、どこをどう行けばいいのかまったくわからない。
「うぅ……」
人がいない。
街の喧騒も聞こえてこなくて、やたらと静か。
そして、薄暗く気味が悪い。
ニーナは体を縮こまらせて、涙目になってしまう。
早く買い物に戻らないと。
それ以前に、人のいる明るいところへ戻らないと。
焦り、とにかく移動を繰り返していく。
しかしそれが裏目に出てしまい、ニーナはさらに街の奥の奥へ移動してしまう。
ホライズンは悪質な領主が排除されて、急速に改革が進んでいた。
とはいえ、まだ暗部は残されている。
裏路地に進めば質の悪い者がいるし、犯罪者達の苗床にもなっている。
「……あぅ……」
そんなところに足を踏み入れてしまったニーナは、びくびくと震えていた。
さらに涙目が強くなり、決壊寸前だ。
「あぁ……? なんだ、このガキは?」
とある男が、そんなニーナに気がついた。
男は、荒くれ者、という言葉を体現したかのような格好、容姿をしていて、その身にまとう気配も剣呑なものだ。
彼らは、たとえるなら狼。
そして、ニーナはかよわい羊。
獲物にされて、たちまち食べられてしまうだろう。
「おい、嬢ちゃん」
「ひぅ!?」
「へっへっへ、こんなところでなにをしているんだ? 嬢ちゃんみてえな子が来るところじゃねえぜ? 一人でいたら、悪いヤツにぱくりと食べられるからなあ、へっへっへ」
「あうあう……」
ガクガクと震えるニーナ。
本来なら、最強種であるニーナの方が圧倒的に強いのだけど……
でも、心はまだ子供。
見知らぬ場所。
おっかない男。
その二つに心が弱ってしまい、泣き出す一歩手前だった。
そんなニーナを見て、男は……
「おいおい、迷子なのか? ったく、仕方ねえ嬢ちゃんだなあ。おら、こっちに来い」
「ふぇ……?」
「へっへっへ、悪いようにはしねえよ。へへへ」
「ひぅ」
男に手を掴まれるニーナ。
しかし、恐怖に動くことができず、そのまま連れ去られてしまう。
そうしてニーナが連れて行かれたところは……
「ほらよ」
「……あれ?」
人がたくさんいる、明るい表通りだった。
ニーナはキョトンとしつつ、男を見る。
自分は誘拐されるはずだったのでは……?
「あん? どうしたんだ、ぼーっとして」
「え、と……」
「じゃあな。もう迷子になるんじゃねえぞ」
男はニーナの頭を軽く撫でて、裏路地に消えた。
要するに……
男にニーナを誘拐するつもりは欠片もなくて、ただの親切で迷子を表通りに連れて来たのだった。
悪人に見えたけれど、しかし、善人だったのだ。
「あり、がとう……!」
ニーナは立ち去る男の背中に声をかけて、ぺこりと頭を下げた。
――――――――――
「……あー、ヒヤヒヤしたわ」
こっそりと様子を見守っていたタニアは、ニーナが表通りに出たところで、ほっと安堵の吐息をこぼした。
迷子になって裏路地に迷い込み……
悪人っぽい男に声をかけられた時はとても焦った。
ウチのニーナに手を出してタダで済むわけないわよね?
生きていることを後悔させてあげる!
……なんて、飛び出して男を滅多打ちにしようと思っていた。
ただ、ギリギリまで手を出さないように、と約束していたため様子を見ていたら……
男は親切に、ニーナを表通りまで連れて行った。
悪人面なだけで、実は良い人なのかもしれない。
「人間は見かけによらないわね」
やれやれと、タニアはため息をこぼすのだった。
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