196話 名探偵ティナちゃん・後編
「ティナ、どうしたの?」
「謎は……謎は、全て解けた!」
リファの問いかけに、ティナはキリッとした表情で応える。
「本当か、ティナ!?」
「ふっふっふ、うちの黄金の頭脳に解けない謎はないで!」
今度はドヤ顔だ。
よほど自信のある推理を組み立てることができたのだろう。
このまま事件解決となるのだろうか?
「やっぱり、犯人はこの中におるなー」
「「「っ!?」」」
みんなが驚いて、それぞれ疑惑の視線を飛ばす。
互いが疑心暗鬼に染まる中、ティナはゆっくりと口を開く。
「この事件の犯人、それは……」
「「「ごくり」」」
「……ソラ、あんたや!」
びしぃっ、とティナはソラを指さした。
「えぇ!? ソラですか!?」
心当たりなんてない、という感じで驚いていた。
これが演技だとしたら、ソラは大した役者だ。
「どうしてソラが犯人なんですか!? 適当を言わないでください」
「悪いが、うちは確信があるでー」
ティナは、ニヤリと不敵に笑う。
「みんな、思い出してくれへん? 最初、カナデが倒れていた時、カナデは包丁を指さしていた。それは、ダイイングメッセージ。犯人は包丁でカナデを……と考えたんや」
「その通りですわ。カナデさんが、最後の力を振り絞って託したメッセージを、わたくし達は……」
「でも、それが間違いやったんや」
「え?」
「凶器は包丁……それは間違いや」
ティナは苦い表情を見せた。
「倒れているカナデのすぐ近くに包丁。そんな現場を見れば、大抵、凶器が包丁やと思いこんでしまうやろな。ダイイングメッセージもあることやし」
「違うというのか?」
「なら……どうやって?」
「まあ、それは後で明かすとして……カナデは白目を剥いて泡を吹いて倒れていた。つまり、刺殺ではなくて毒殺!」
「「「おぉ」」」
みんな、感心の声をあげた。
いや、まあ。
被害者の状況を見れば一目瞭然なのだけど……
みんな、気づいていなかったのか……?
「じゃあ、あのダイイングメッセージはなんだったのよ?」
「ただの偶然とか?」
「いや。あれは、犯人に繋がるヒントを残してくれていたんや」
ティナは得意そうに語る。
「凶器は包丁やない。そうなると、包丁はなにに使う? 答えは簡単や。包丁は料理に使うものや」
「……っ……」
「つまり……包丁が凶器やなくて、料理そのものが凶器なんや!」
「「「ま、まさか……」」」
みんなの視線が一斉にソラに向いた。
ソラは……
ただ、黙っていた。
無表情で、なにを考えているか読み取れない。
「……ふ」
やがて、ニヤリと口元を歪める。
「そう、そうです……このソラが犯人です」
「「「な、なんだってーーー!?」」」
「まさか、こうも簡単にバレてしまうなんて……ティナは、どうしてわかったんですか?」
「さっきも言った通り、ダイイングメッセージの本当の意味に気づいたからやな。それと……事情聴取をした時に、ちと引っかかったんや」
「なにか失敗をしましたか?」
「ルナは、ソラがぼっちだから一緒にいた、言うてたやろ?」
「……そうですね」
「つまり、ソラはぼっちだったんや。最初は誰ともおらんで、一人きり。だから、ルナはソラのことをぼっちと表現したんや」
「……」
「ソラがやってくるまでの間、ルナは一人きり……アリバイなし、や。まあ、アリバイがないのは他のみんなも同じみたいなものやから、そこは今更の話。でも……どうして、ごまかすようなことを口にしたんや?」
「……」
「やましいことがないのなら、レインの旦那のように、素直にアリバイがないことを認めればいい。だって、変にごまかして後でバレたりしたら、怪しまれるのは確定やからな。それなのに、ソラは最初からごまかした。ずっと一人ではなかったと、嘘を吐いた。そこを不審に思い……って感じやな」
「……なるほど。さすがティナですね、メイドを侮っていましたよ」
ソラは悪い顔をした。
くくく、と悪の幹部のように笑う。
「凶器は、ソラの料理……犯人は、ソラ。どうして、こんなことをしたんや?」
「……カナデが悪いんですよ」
「カナデが?」
「カナデが、カナデが……」
ソラはぷるぷると震えて、渾身の叫びを放つ。
「カナデがソラのプリンを食べたのが悪いんです!!!」
「「「……」」」
「だから、ソラは復讐をしたんです……そう、これは正当な権利! スイーツの恨みは海よりも深いんです。許せることではありません!」
「「「……」」」
「みなさんも、そう思いませんか!?」
ソラは、必死の形相で語りかけてきた。
対するティナは、苦い表情をして……
「ソラ」
「……ティナ……」
「罰として、今夜のスイーツ、ソラだけなしや♪」
「あっ、あああああぁ……!?」
ソラは涙を流して、その場に崩れ落ちるのだった。
なんて痛ましい事件だったのだろう。
なんて悲しい事件だったのだろう。
たかが食べ物と侮ることなかれ。
スイーツは、乙女にとって命よりも大事なものなのだ。
でも、この教訓を次に活かすことが大事だ。
事件を忘れず、二度と繰り返すことのないように成長していきたい。
それがきっと、亡きカナデも望んでいることだと思うから……
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「いやいやいや!? 私、死んでないからね!? そもそも、気絶していただけだからね!? にゃーーーーー!!!」