195話 名探偵ティナちゃん・中編
「被害者の様子からして、事件は、今からおよそ30分前に起きたはずや。その時、みんながなにをしていたか……一人ずつ、聞かせてもらおか」
いつの間にか、ティナはベレー帽をかぶり、パイプを咥えていた。
典型的な探偵スタイル。
まずは形から入るタイプなのだろう。
「レインの旦那は?」
「俺は……30分前なら、一人で部屋にいたな。武具の手入れをしてて……その間、誰もやってきていない。だから、正直なところ、アリバイはない」
「ふむふむ。なるほどやでー」
ティナは念動力を使い、メモをしつつ、タニアに視線を移す。
「あたしは、ニーナと一緒にいたわ。ニーナの尻尾のブラッシングをしてあげていたの。ほら、ニーナって尻尾が多いから、大変でしょう? 誰かが手伝ってあげないと」
「うそじゃ……ないよ? タニアに、もふもふ……してもらって、いたの」
「我は、姉と一緒にいたな。姉はぼっちだから、我がいないと寂しくて泣いてしまうのだ」
「誰がぼっちですか!? あと、変な嘘を混ぜないでください! まったく……ルナの言うように、ソラはルナと一緒にいました。もちろん、トイレに行くことはありましたけどね」
「わたくしは、サクラさんとフィーニアさんと、お茶会をしていましたわ。あ、場所はわたくしの部屋ですわ」
「イリスのお茶、美味しい! お菓子も美味しい! ……じゅるり」
「さ、サクラちゃん、今はそういう感想を言う時じゃなくて……あぁ、ごめんなさいごめんなさい!」
「ボクは、ライハとコハネとエーデルワイスの四人で、ボードゲームで遊んでいたよ」
「白熱した戦いだったっす! 特に、魔王さまが奴隷から皇帝に成り上がった時は、めっちゃくちゃ燃えたっす!」
「ふふん。私ならば、それくらいは当然のこと。ゲームであれ、王であることが運命に求められているのだろう」
「最善の計算をしたはずなのでしたが、みなさまの勘や運には勝てず……情けないばかりでございます」
「ほうほう……なるほどなー。みんな、基本、自分の部屋にいた、っていう感じやな」
ティナは、さらにメモを進めた。
ぽんぽんと、ペンの先でメモ帳を叩く。
彼女の考える仕草なのだろう。
「今んところ、みんな、アリバイはないな」
「え、なんでよ? レインはともかく、あたし達はみんな、誰かと一緒にいたじゃない」
「そうなのだ。疑われるなんて、ありえないのだ」
「一緒にいたみんなが共犯やったら?」
「「「……」」」
「そう。犯人は単独犯って決まったわけじゃないねん。複数犯かもしれん。その場合、口裏を合わせるやろ? そういうわけやから、みんなのアリバイはないんや」
もっともな話だ。
単独犯しかありえない、っていう状況ならともかく……
現場を見る限り、単独犯も複数犯もどちらもありえる状況だ。
「んー……これは難事件やな。でも、必ず解決してみせるで……そう、この美少女名探偵ティナちゃんに解けない謎はない!」
「なんか、さりげなく美少女が追加されていますわ」
「けれど、事実、ティナさまは美少女ではないかと」
「宣言通り、美少女名探偵と呼ぶか」
「「「よっ、美少女名探偵!」」」
「やめてーな!?」
耳まで赤くなる。
「うぅ……ちょいボケただけやのに、まさか、ここまで総ツッコミされるとは……」
「それはそうと、犯人探しはどうなるのですか?」
「ふっふっふ、我に任せるがよい」
自信たっぷりに前に出たのは、ルナだ。
なにか秘策があるのだろうか?
「我の考えによると……」
「「「ごくり」」」
「犯人はこの中にいる!」
「「「っ!?」」」
「……」
「「「……」」」
沈黙。
いつまで経っても沈黙。
それに耐えかねたかのように、ライハが口を開く。
「結局、誰が犯人なんすか?」
「知らん」
「え」
「ただ、お決まりの台詞を言ってみたかっただけなのだ」
「「「……」」」
みんなから怒気があふれた。
えっと、まあ……
気持ちはわかるけど、ほどほどにな?
――――――――――
ルナに対するおしおきが終わり……
再び推理タイム。
ただ、みんなにアリバイがないようなもので、唯一の手がかりであるカナデのタイイングメッセージも、よくわからない。
包丁が凶器なのだろうか?
しかし、カナデに外傷はなくて、なにかしらの原因で昏倒しているだけ。
「ふむ」
もしかして、俺達は、なにかとんでもない勘違いをしているのではないか?
ふと、そんなことを思う。
ただ、その違和感を明確な言葉にして説明することができない。
どこだ?
どこで引っかかりを覚えている?
「んー……」
ティナも同じことを考えているらしく、複雑な表情だ。
ふわふわと浮かびつつ、じっと現場を見つめている。
「……せや! そういうことやな!?」
なにか閃いた様子で、ティナが大きな声をあげた。