192話 小悪魔天使は懐かれた・中編
「ふふ、こちらへいらっしゃいませ」
「みゃー!」
ねこじゃらしを手にしたイリスは、ふりふりと振ってみせた。
それを追いかけて、子猫は右へ左へ。
時折、ぴょんと小さくジャンプする。
「はぁあああ……」
イリスはとろけるような表情に。
可愛い。
可愛すぎる。
子猫の愛らしさたるや、なんていう破壊力なのか。
これはもしや、神がもたらした地上最強の兵器なのでは?
……なんて、訳のわからないことを考えるくらい、イリスは子猫の魅力にやられていた。
「ねえねえ」
そんな様子を眺めていたカナデは、ふと、疑問を口にする。
「名前をつけないの?」
「名前ですの?」
「飼うなら、きちんと名前をつけてあげないと」
「そうですわね……確かに。ですが、難しいですわ」
「そういうことなら、私達も一緒に考えるよ。ね?」
他のメンバー達が笑顔で頷いた。
そして、子猫の名前を考える会が開かれる。
「ニャン吉さん、なんてどうかな?」
「冗談はカナデの頭だけにしておきなさい」
「ひどい!?」
「茶太郎なんていいんじゃないかしら?」
「カナデと同じレベルですね」
「えぇ!?」
「アルティメットカイザーフレイムオーバーキングはどうなのだ?」
「「「可愛くない」」」
「全会一致の否定!?」
「シンプルに、タマはどうでしょうか?」
「つまらないのだ」
「そうね、つまらないわね」
「面白さは関係あるんですか!?」
「ミー……ちゃん」
「かわええなー」
「候補その一として、リストアップしておきますわ」
「うちは、ムギがええと思うで」
「それも可愛いね」
「候補その2、にしておきましょう」
「わたくしは、ゴンザレスがいいと思いますわ」
「ゴン……」
「……聞かなかったことにいたしましょう」
「なぜですの!?」
「んー……ボクは、もちたろう」
「可愛いような、可愛くないような……」
「わふ、美味しそう」
「ぼく、タマ!」
「さ、サクラちゃん、それ、ソラさんがすでに……」
「わふ?」
「え、えとえと……ルー、なんてどうでしょう?」
「あら、可愛いですわ」
「候補その3、やな」
「自分は、ライガーを推すっす!」
「かっこいいけど……」
「この子、メスですわ」
「わたくしは、ひまわりという名前を考えてみました」
「うんうん、コハネらしいね」
「候補その4、っすね!」
「私は、クイーンがいいと思うぞ」
「大層な名前に……って、エーデルワイス!?」
「いつの間に!?」
「む? 私も、我が主と契約をしたのだ。こちらに出ても、問題なかろう?」
「いきなりすぎて驚いたよ……」
……などなど。
みんなで話し合うものの、なかなか名前が決まらない。
そんな女性陣の苦労を知らず、子猫はのんびりと床を転がっていた。
「まあ、そんなに急がなくていいんじゃないかな? もちろん、名前はつけた方がいいと思うけど、一生のものだからね。きちんと時間をかけて考えた方がいいよ」
「カナデのくせに、まともなことを言うのね……」
「私、どんな風に思われていたの!?」
「こちらの子猫の方が賢く見える、腹ペコ猫だな」
「魔王にまでそんな感じに見られていたの!?」
がーんとショックを受けて、崩れ落ちるカナデ。
子猫は、そんなカナデに歩み寄り、慰めるかのようにぺろぺろと舐めるのだった。