190話 ステラ隊長の忙しい一日・後編
「ふぅ……」
日が暮れる頃、ステラは、ようやく騎士団支部に戻ってくることができた。
あれから、いくつものトラブルに見舞われた。
そのどれもが最強種が関わっていて……
正直、頭が痛い。
「とはいえ……こういうのも、この街らしいというのだろうな」
最強種と人間が仲良く暮らしている。
そんな街は、他に一つしか聞いたことがない。
なんだかんだ、ホライズンと最強種達は仲良くやっているのだ。
おかげで、彼女達を追い出せ、なんていう声を聞くことはない。
今回のようなトラブルが起きたとしても、やれやれ仕方ないな、の一言で済んでしまう。
翌日は、トラブルなんて忘れて、うちの店に寄っておいで。
色々な話を聞かせてほしい、と親しげに声をかけるほどだ。
「彼女達は、もう、すっかりこの街の一員なのだな」
そのことを、少し誇らしく思うステラだった。
「さて、帰るか」
今日の任務は終わり。
後は他の団員に任せて、家に帰ることにしよう。
ステラは騎士団支部を後にして、帰路を辿る。
まだ夜になったばかり。
ホライズンの人々がたくさん見えて、酒場からはたくさんの笑い声が聞こえてきた。
その平和な光景に思わず笑みがこぼれる。
心も軽くなり、楽しくなる。
ステラは軽やかな足取りで家に……
どごーーーんっ!
「……」
少し離れたところから轟音が聞こえてきて。
振動も響いてきて。
思わず、ぴたりと足を止める。
音の方を見ると……
「にゃあああ!」とか。
「まちなさい!」とか。
そんな声がわずかに聞こえてきた。
ため息。
そして、ため息。
さらにため息。
「まったく……あの者達は!」
ステラはズンズンと足音を響かせつつ、音がする方に歩いていく。
今日は仕事で疲れた。
帰って風呂に浸かり……
そして、酒を嗜みつつ、夕飯をゆっくりと食べたい。
そう思っていたのに……
「カナデ! タニア!」
「にゃん!?」
「す、ステラ!?」
しばらく進んだところで、騒動の元凶であるカナデとタニアを発見した。
二人は、なにやら追いかけっこをしていた。
ケンカをするのは仕方ない。
時に、仲の良い者同士でも意見の衝突はあるものだ。
しかし、周囲に迷惑をかけるのはいかがなものか?
しかも、今日はこれで二度目。
東の国では、神の顔も三度まで、という言葉があるらしいが……
ステラの顔は一度までである。
「昼、騒いで……そしてまた夜に騒いで! 自重という言葉を知らないのか!?」
「え? あ、その……ち、違うよ? 私達のせいじゃないよ?」
「そ、そうよ。これは、全部ソラとルナがあたし達のごはんを盗ったからで……」
「言い訳無用!」
「「っ!?」」
カナデとタニアは直立不動になった。
最強種を言葉で縛り付ける。
それだけの迫力が今のステラにはあった。
「今日という今日は許さぬぞ! 二人共、そこで正座だ!」
「えーっ!? わ、私達は別に……」
「なにかしたわけじゃないし……」
「正座!」
「「はいっ!!」」
据わった目で睨みつけられて、カナデとタニアは慌てて正座をした。
最強種二人を正座させる。
今日のステラは一味違う。
「いいか? 前々から思っていたが、二人には常識が足りていない。人間に擦り寄れ、なんて言うつもりはない。しかし、ここは人間の街だ。ある程度、歩み寄ることは必要ではないか? その自覚を持たず、日々、好きなように生きているから、今のようなトラブルが続出してしまう。そのせいで、いくらの人が迷惑を受けていることか。そのことを考えたことはあるのか? いや、ないな。だからこそ、こうして好きにしてしまう。そうならないためにするべきことを、一つ一つ、しっかりと学んでほしい。まずは……」
「にゃぁ……」
「はぅ……」
カナデとタニアの尻尾がしゅんと垂れてしまう。
この街で本当に怒らせてはいけないのは、ステラかもしれない。
そんな事実が発覚した日だった。