189話 ステラ隊長の忙しい一日・中編
ほどなくして、カナデとタニアのケンカは終わりを告げた。
レインが帰ってきたらしい。
部下の報告によると、カナデとタニアは正座をさせられて説教を受けているとか。
二人には悪いが、ちょっとだけスッキリしたステラだった。
「さて、見回りに行くか」
書類仕事を終わらせたステラは、外に出た。
本来なら、騎士団長が見回りをする必要はない。
ただ、ステラは自分の目で見て確認することが大事と思っているため、こうして定期的に巡回に出ることにしていた。
笑顔で走る子供達。
その親達は、近くで井戸端会議を開いている。
露店からは威勢のいい呼び声が響いていた。
「うむ、今日も平和だな」
さきほどのカナデとタニアのケンカは別として……
ホライズンは平和が続いていた。
一時は、悪徳領主によって街が食い物にされていたが……
それも過去の話。
今は、人々の笑顔が太陽のように輝いている。
皆が力を合わせて……
そして、とある英雄のおかげで勝ち取ることができたものだ。
この平和を大事にして、しっかりと守っていかないといけない。
ステラは、今まで以上に使命感を燃え上がらせた。
そんな時。
「ステラ団長!」
聞き覚えのある声に振り返ると、同じ騎士団の仲間が見えた。
まだ、街が悪徳領主の支配下に置かれていて、騎士団も腐敗していた頃……
その時からステラに付き従い、一緒に改革を成し遂げてくれた大事な部下だ。
「こんなところで会えるなんて奇遇ですね! ずっと張り込んでいた甲斐が……いえ、とても偶然ですね!」
「そうだな、偶然だな」
「ステラ団長は、これからどちらへ?」
「見回りをしているのだが……そうだな、そろそろ昼食を食べたいな」
「でしたら、ご一緒しませんか!?」
「ああ、問題ない」
「やったぁ!」
部下は満面の笑顔になり、喜びを表現するかのようにぴょんとジャンプした。
「ステラ団長と一緒♪ 一緒にごはん♪」
「そんなに嬉しいのだろうか……?」
「もちろんです! ステラ団長と一緒にごはんなんて……ふへ、うへへへ」
おおよそ純粋な喜びとは違う笑い声がこぼれているのだけど、ステラはそれに気づかない。
変わった子だな、と思うくらいだ。
彼女の人生は、騎士一筋。
故に、ちょっと色々と疎いところがあった。
――――――――――
「さて、見回りを再開するか」
部下と食事を終えて……
この後、宿にでもと誘う部下と別れて……
ステラは、再び見回りを行う。
とはいえ、その必要はないくらい街は平和だ。
たまにケンカなどのトラブルは起きるものの、本格的な犯罪に手を染めるような悪人はいない。
また、他所からそんな悪人がやってきたとしても、すぐに見つかり、騎士団に逮捕されてしまう。
一度は、汚されてしまった街。
でも、色々とあって浄化されて綺麗になることができた。
再び汚してなるものかと、住民達も一致団結して、街の平和作りに取り組んでいるのだ。
そんな人々のことを、ステラは誇らしく思う。
同時に、絶対に守らなければいけないと、より一層使命感を強くするのだった。
「うん?」
ふと、喧騒が聞こえてきた。
ケンカだろうか?
だとしたら、仲裁に入らないといけない。
ステラは駆け足で現場に急いで……
「これは、我が先に目をつけたホットドッグなのだ!」
「いいえ、ソラが先です。最後の一つ、渡すわけにはいきません!」
「ボクも食べたい。お腹空いた」
「えっと、えっと、ここだとみなさんのご迷惑になってしまうから……ああでも、それを言うならワタシの存在そのものが迷惑に……あぅあぅ」
「……」
騒ぎの原因は、見慣れた者達だった。
ホライズンの英雄の仲間だ。
それ故に、街の人々もどう口を挟めばいいかわからない様子で、遠くから眺めるだけ。
「はぁ……」
ため息一つ。
このまま、回れ右をして見なかったことにしたいが……
さすがに、そういうわけにはいかない。
「レインにあれこれ言うのはとても気が引けるのだが……これはもう、仕方ないな。後で苦情を入れておこう」
ステラはやれやれと頭を振りつつ、ケンカを続ける最強種達のところへ向かうのだった。