19話 はじめてのおつかい・その3
「こん……にちは」
八百屋に到着したニーナは、店主の女性にぺこりと頭を下げた。
そんなニーナに気づいた店主は、明るい笑顔を見せる。
「おや、ニーナちゃんじゃないか! いつもかわいいねえ」
「あり、がとう」
ちょっと照れた様子で、ニーナは尻尾をぴょこぴょこさせた。
そんな様子に、店主はほっこりとする。
カナデ、タニア。
ソラ、ルナ、ティナ。
みんな商店街のアイドルだ。
ただ、ニーナは違う。
アイドルというよりは孫娘。
ついつい甘やかさずにはいられない愛らしい存在で、話をしているだけで、にへら、とだらしない笑みが浮かんでしまう。
「今日はどうしたんだい? もしかして、買い物かい?」
「うん。お買い物……頼まれたの」
「へぇ、そいつは」
店主は驚いた顔に。
レイン達はニーナをとても可愛がり、そして、すごく大事にしていた。
だからこそ、一人で買い物に行かせることに驚きを覚えてしまう。
とはいえ、悪いことではない。
まだ子供だけど、この歳から独り立ちの準備は進めた方がいい。
なるほどね、とレイン達の思惑を察した店主は、野暮は言わないことにした。
「それで、なにが欲しいんだい?」
「えっと……玉ねぎと人参。あと……じゃがいも」
「ほい、玉ねぎと人参とじゃがいもだね? 今日はカレーかな? あ、シチューっていう可能性もあるわね」
「そう、だった」
言われてみれば、シチューという可能性もある。
でも、カレーもシチューもどちらもおいしい。
むしろ両方でもいい。
そんなことを考えるニーナは、狐耳をぴょこぴょこと動かしていた。
「はいよ、全部袋に詰めておいたよ」
「あり、がとう……お金」
「ひいふう……うん、確かに。毎度あり!」
ニーナは野菜がたくさん入った袋を受け取る。
彼女は最強種であり、子供だけどそこらの人よりも強い力を持っていることは、店主も知っていた。
しかし、袋が大きすぎやしないだろうか?
ニーナの体は小さいから、バランスを崩してしまわないだろうか?
店主はそんな心配を覚えるが……
「よい、しょ」
店主の心配をよそに、ニーナは亜空間に繋がる扉を開いた。
その中に袋を入れてしまう。
「……」
「どう、したの?」
「いや……いらない心配だったね」
「?」
「おつかい、がんばりな」
「うん」
ニーナは笑顔で頷いた。
そして店主に手を振り、八百屋を後にする。
――――――――――
「……こちらカナデ。レイン、聞こえる?」
『ああ、聞こえるぞ』
少し離れたところでニーナの様子を見守っていたカナデは、頭の中でそう念じた。
すると、レインの声が頭の中に響く。
事前にソラとルナにかけてもらっておいた、通信用の魔法だ。
一定時間、一定範囲内なら念じるだけで会話ができるという優れもの。
上級魔法に分類されるもので、現在、使えるものはほぼほぼいない。
そんな贅沢な魔法を気軽に使ってしまう。
いかにニーナのことを気にかけているかがわかる瞬間だった。
「ニーナは八百屋でのミッションを完了。続いてのポイントに向かうよ」
『なにか問題は?』
「うーん……なにもないと思う。八百屋のおばちゃんとも仲良く話していたし、もちろん、買い物も無事に終わったよ」
『そっか、よかった』
「……にゃふー。ねえねえ、レイン」
『うん?』
「ティナにはああ言ってたけど、レインも、けっこう心配性だよね?」
ニーナが問題なく買い物を進めたと聞いて、レインはあからさまにほっとした声を出していた。
それを見逃すカナデではない。
『うぐ』
「ティナだけじゃなくて、レインもニーナ離れしないと」
『……まあ、おいおいな』
「ふふ、了解。じゃあ、通信終わるね」
『引き続き、頼むよ。俺は、指示で動けないから』
「任せて!」
ここにレインはいないのだけど、カナデはびしっと敬礼をして念話を終えた。
再びニーナの追跡を始めようとして……
それから、ちょっと拗ねたような顔になる。
「……私のことも、もうちょっと気にしてほしいな」
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