186話 猫太郎・後編
「ここが、鬼王城……!」
長い旅の果て、カナデ達は、鬼が住む鬼王城にやってきました。
険しい山脈の上に立つ城。
鬼がたくさん暮らしているということで、街のような大きさで……
その迫力は抜群です。
フィーニアは、「ワタシちょっとお腹が……」と言って引き返そうとしていましたが、サクラに捕まっていました。
「よーし! みんな、いくよ。悪い鬼達をこらしめないと」
「えっ、嫌よ」
「……」
速攻で否定されてしまい、カナデが固まりました。
「にゃんで!?」
「やっぱり、めんどくさくなって」
「ものすごい酷い理由!」
「カナデだけでがんばってちょうだい」
「にゃー……」
カナデは頭を抱えました。
タニアの戦線離脱は痛いです。
というか、めんどくさいから、なんていう理由で離脱なんて認めたくありません。
カナデは必死に考えました。
唸れ、猫耳少女の脳細胞!
「そ、そうだ! 鬼王城を落とせば、きっと、たくさんのお宝が手に入るよ?」
「……カナデ、あんた、あたしがお宝に目が眩むような人だとでも?」
「えと、その……ごめん」
「そういうことは早くいいなさいよ! お宝は、全部、あたしのものよ!」
「清々しいほどに現金!」
タニアはとてもわかりやすい子でした。
そして、四人は、さっそく鬼王城の攻略を始めました。
まず、最初にタニアが……
「これでも喰らいなさい!」
炎を吐きました。
ゴォッ! と轟音を響かせつつ、門を吹き飛ばしました。
ついでに、周囲の見張り台が爆散しました。
「……」
カナデは唖然とします。
鬼王城の攻略を決めたのはカナデです。
しかし。
しかし……
ここまで凄惨な光景になるとは、さすがに予想外でした。
いきなり城にやってきて門を吹き飛ばす……
どちらが悪かわかったものではありません。
「わふっ、がんばる!」
「が、がんばりましゅ!」
続けて、サクラとフィーニアが前に出ました。
この時、カナデは安心していました。
二人はタニアと違い、わりと真面目です。
問答無用でいきなり敵地を爆破するようなことは……
「これは、ぼくからのプレゼント!」
「も、燃えてくださいーーー!」
サクラが大岩を持ち上げて、投げました。
それにフィーニアが炎をまとわせて……
燃える岩石が隕石のように降り、城を破壊します。
ゴガァッ!!! という轟音を響かせて、タニア以上に破壊していました。
カナデは卒倒しそうになりました。
「いやいやいや。いくらなんでも破壊しすぎだから。こんな戦い方、アリなの……? ねえ、アリなの……? 私達、正義の味方だよね? でもこれ、悪っぽいよね……?」
頭を抱えるカナデ。
その間にも、暴君三人による攻撃……というか破壊活動は続いていきます。
どがーん! という轟音に混じり、城から無数の悲鳴が聞こえてきました。
助けてくれー! という悲鳴が聞こえてきます。
それを耳にしたカナデは、とても胸を痛めました。
これ……やらかしたのでは?
そんなことを思いますが、今更、止めることはできません。
カナデ達は奥へ進み……
「よくもやってくれたね」
鬼王であるリファと対峙しました。
王であるリファは怒っていました。
当たり前です。
いきなり炎を投げ込まれたりして、怒らない方がおかしいです。
「あんたが鬼の王ね? 痛い目に遭いたくなかったら投降して、財宝を全て差し出しなさい。そうすれば、命だけは助けてあげる!」
どう見ても悪役のセリフです。
そして、そう言い放つタニアの表情も、とても良い悪役顔でした。
「ボクは負けないよ。みんなのために勝つ」
「へぇ、あたしに勝てるとでも? いいわ。その度胸に免じて……数の暴力でフルボッコにしてあげる! サクラ、フィーニア、いくわよ!」
「わふ!」
「は、はひ!」
こうして、三体一の戦いが始まりました。
正義はもはや鬼側にあるような勢いですが……
しかし、タニア達は関係ありません。
この戦いに勝利すれば財宝を奪うことが……もとい、手に入る。
ならば、どのような手を使ってでも勝利するまで。
……完全にタニア達が悪になっていました。
それを見たカナデは、
「……やっぱり、平和が一番だよね。争いなんて虚しいよ」
そっと、現場を後にしました。
そのままカナデは故郷に戻り、レインおじいさんとイリスおばあさんと一緒に仲良く暮らすのでした。
その後……
強盗、暴行、不法侵入……などなど。
数々の罪でタニア達が検挙されたという話を聞くのですが、それを耳にしたカナデは、まあいいや、と聞かなかったことにするのでした。
めでたしめでたし。