182話 天使少女の現代旅行記・ラスト『またいつか』
「芹奈さん、少しよろしいですか?」
「あ、はい。どうぞー」
部屋を訪ねると、芹奈はスマホをテーブルの上に置いた。
「なにをされていたのですか?」
「いえ、ちょっと確認を……」
「確認?」
「えっと……まあ、イリスさんに隠す理由はないですね。ちょっと親戚絡みのことで」
「あぁ」
獣のような二人は叩き潰したが、それでもまだ、芹奈の財を狙う者はいる。
なので……
イリスは一人一人、挨拶をして回り、『説得』をした。
皆、快くイリスのお願いを聞いてくれて……
芹那の財を狙う者は、ひとり残らず『改心』した。
具体的に、どのように心を入れ替えたのか?
どのような性格になったのか?
それは……秘密だ。
イリスのみが知るところである。
「なんだか、急に一気に色々な問題が解決して……不思議です」
「それはよかったではありませんか」
「うーん……なんで? ってちょっともやもやしますけど、そうですね、よかったです」
「ふふ。これで、わたくしも遠慮なく家に帰ることがができますわ」
「え」
芹那がぽかーんとなる。
次いで、思い切り慌てた。
「え、え。か、帰っちゃうんですか!? ここから!?」
「はい」
「そんな……どうして、こんなに突然に……」
「申しわけありません。わたくしにも、色々と都合と事情がありまして」
神様の力で異世界転移した、なんて話、さすがに信じてもらえないだろう。
だから、そう言ってごまかすしかない。
「……そっか」
芹那は寂しそうにしつつも、イリスを引き止めることはない。
彼女はどこか遠くに行く。
そして、それは止められるようなことではない。
それを悟ったのだろう。
「また……会えますか?」
「とても難しいかもしれませんが、どうにかしてみせますわ。だって……」
イリスは少し頬を染めつつ、言う。
「……友達に会いに行くのは、当たり前のことですから」
「わぁ♪」
芹那は満面の笑顔に。
そのままイリスに抱きついた。
「ちょ、芹那さん!?」
「……」
「芹那さん?」
「……きっとですよ」
ぎゅっと、芹那はイリスを抱きしめた。
その手が少し震えていることに気づいて、イリスも芹那を抱きしめた。
「ええ、きっと」
「約束です」
「ええ、約束しますわ」
「あと、それから、えっと……」
芹那は、涙声で言う。
「……元気で」
「芹那さんも、お元気で。さよならは言いませんわ」
「はい、私も。だから……いってらっしゃい」
「いってきます」
そして……
二人はそれぞれの帰る場所に戻った。
――――――――――
「んぅ……?」
イリスが目を覚ますと、そこはホライズンにある家の庭だった。
木の幹に寄りかかり、昼寝をしていたようだ。
少し無理のある体勢で寝ていたため、体がちょっときしむ。
立ち上がり、ぐぐっと伸びをした。
「ふぅ」
青い空を白い雲が流れている。
風が吹いて、緑が揺れた。
イリスのよく知る世界だ。
ただ……
今は少し、あの石と鉄でできた世界が懐かしい。
「今日からまた、がんばるといたしましょうか……ふふ♪」
イリスは微笑み、前に歩き出した。