181話 天使少女の現代旅行記・その32『居場所は……』
神様は、神様によるネットワークを形成している。
地球という世界の神様。
それとは異なる、別の世界の神様。
同じ神様同士、話をしたり情報を交換することができる。
また、別の世界を覗き見ることも可能だ。
その世界の神様は、諸事情あり、今はいない。
だから、代わりにちょくちょく様子を見ていたのだけど……
その中で、一人の少女に目が止まる。
イリスという、天族の少女だ。
彼女が歩んできた道はあまりにも過酷で、苦しくて、痛みにあふれていて……
同情せざるをえない。
余計なお世話と怒られるかもしれないが、手を差し伸べたいと思った。
過去に起きたことを変えることはできない。
現在に及ぼす影響があまりにも大きいためだ。
ならば、未来を与えるというのはどうだろう?
少女が失ったものを取り戻せるような……
再び笑顔になれるような……
そんな温かい未来。
神様は、それをプレゼントすることにした。
そうして、イリスは別の世界に転移させられて……
多少の問題はあるものの、平和な国に送られて……
そこで、柚木芹奈という友達を得た。
「……と、いうわけなんだ」
「なんともまぁ……」
感謝するべきなのか。
それとも、余計なお世話と怒るべきなのか。
本気で迷うイリスだった。
「嫌だったかな?」
「はぁ……とりあえず、それなりに楽しい時間だった、と本音をこぼしておきますわ」
下手に機嫌を損ねてもまずいと思い、正直に答えることにした。
「とはいえ、元の世界に仲間を残してきているのですが……」
「それは大丈夫。帰りたいなら、元の時間に戻すことができるから」
「なんでもありなのですね」
「神様だからね、えへん」
仕草は見た目相応だった。
「それで、どうする? 帰ることもできるし、このまま、こっちに残ることもできるよ?」
「それは……」
芹奈の顔が思い浮かぶ。
吉野やクラスメイトとの時間も思い返した。
それらの時間は輝いているかのようだった。
変なことを考えることはなくて、楽しい時間を過ごすことができた。
そこで得た笑顔は本物だ。
ただ……
「せっかくですが、元の世界に帰りますわ」
芹奈達のことは考えた。
しかし、迷いはなかった。
この世界で過ごすのは魅力的だ。
楽しいことは、まだまだたくさんあるのだろう。
芹奈だけではなくて、他にも友達ができるだろう。
けれど……
ここに仲間はいない。
敬愛する主がいない。
「わたくしの居場所は、あの辛く苦しく……でも、とても楽しい場所なのですわ」
「……そっか」
迷いのない言葉。
そして、恐れのない笑顔。
それを見た女の子は、納得した様子で頷いた。
「じゃあ、いつ帰る? 望むなら、いつでもいけるけど」
「芹奈さんにお別れをしたいので……30分後で」
「え、それでいいの? 1週間後とかでもいいんだよ? 挨拶をする人は、他にもいるんじゃないかな? さっきも言ったけど、まったく同じ時間に戻すことができるから、ここで過ごす時間については考えないでいいんだけど」
「そうしたいところではあるのですが……」
イリスは困ったように微笑む。
「あまりたくさんの方と話をしたら、まだここにいたい、と思ってしまうかもしれないので」
「そっか……うん、了解。じゃあ、30分後ね」
「はい」
「とりあえず」
女の子は背を向けて……
それから、ひらひらと手を振る。
「少しは楽しんでくれたなら、よかった。またね」
そのまま、ふっと消えた。
幻かと思ってしまうものの、そうではないのだろう。
「……またね、ということは、またこのようなことが起きるのでしょうか?」
ふと、不安になるイリスだった。




