168話 天使少女の現代旅行記・その19『決して敵に回してはいけない相手がいる』
「……バカな」
男は呆然と呟いた。
それもそうだ。
銃弾が直撃して、少し痛い、で済ませられる人間なんているわけがない。
確実に頭部に直撃した。
それなのに、頭部を吹き飛ばすのではなくて、逆に銃弾の方が弾かれて……
「な、なんなんだか、お前は……? なんなんだよぉっ!?」
「ふふ」
イリスは不敵に微笑み……
そっと、唇に人差し指を当てる。
「秘密ですわ♪」
――――――――――
力量差は十分に見せつけた。
戦意を喪失させて、心を折ることができただろう。
なればこそ、これからだ。
「さあ。せいぜい、全力で抵抗なさってくださいな。でないと、一方的な蹂躙になってしまいますわよ? ふふ」
イリスはあくまでも笑みを浮かべたまま、地面を蹴り、男に向けて突撃した。
それは、さながら暴走するトラックだ。
男は抵抗することができず、成す術なく跳ね飛ばされて、空高く舞い落ちる。
イリスは止まらない。
さらに部下達の中央に飛び込み、地面に拳を叩きつけた。
地震が起きたかのように地面が揺れた。
ゴウッ! と衝撃波が撒き散らされて、部下達がおもちゃのように吹き飛ぶ。
ある者は、男と同じように、空高く舞い上げられて、それから地面に叩き落された。
ある者は、重力の存在を無視して真横に吹き飛ばされて、遊具に激突した。
逃げられない。
本能的にそう悟った部下達は、必死で抵抗した。
銃を抜いて。
ナイフを抜いて。
あるいは、拳で殴りかかる。
しかし、その全てがイリスに届かない。
直撃しているはずなのに、まともにダメージを与えることができない。
逆に痛烈な反撃を食らい、嘘のように仲間達が吹き飛んでいく。
百人は集めたはずなのに、気がつけばもう半分以下になっていた。
蹂躙だ。
なんだ?
なにが起きている?
この少女は、いったい何者なんだ?
本当に人間なのか?
仲間が次々とやられていた。
しかも、そのやられ方が理不尽すぎる。
ナイフで斬りかかるものの、少女は手の平で受け止めて、そのまま握り潰してしまう。
カウンターの一撃で、仲間が公園の外にまで吹き飛ばされていた。
数十メートルは飛んだだろう。
確実に再起不能だ。
数人が銃を取り出して、迷うことなく引き金を引いた。
この際、騒ぎになるということは気にしていられない。
目の前の化け物を一秒でも速く排除したい。
恐怖に駆られての行動だ。
しかし、弾丸が少女に刺さることはない。
九割を避けて。
一割が当たる。
それでも、大したダメージを与えることができない。
銃弾を受けたはずの少女は、「痛いですわね」と不快そうにつぶやいて、銃を持つ男達を拳一つでなぎ倒していく。
人形のように、男達を空高く吹き飛ばして。
地面に大穴を空けて。
ついでに、遊具を紙のように折り曲げて、男達を拘束する。
無茶苦茶だ。
デタラメだ。
薬をやりすぎて幻覚を見ているのではないか?
そんなことを真面目に考えてしまうくらい、目の前で繰り広げられている光景は非現実的だ。
「ふふ。こちらの世界に来て、しばらくおとなしくしていましたが……やはり、運動はしないといけませんわね」
「な、なんだよ……なんなんだ、お前はぁっ!!!?」
「最強、ですわ♪」
少女は微笑みつつ、最後に残った一人の意識を刈り取るのだった。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新連載です。
『堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く』
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