17話 はじめてのおつかい・その1
「なあなあ、レインの旦那」
夜。
リビングでくつろいでいると、ふわふわとティナがやってきた。
「ちと相談があるんやけど、今、時間ええ?」
「ああ、大丈夫だ」
読んでいた本をパタンと閉じて、近くのテーブルの上に置いた。
ちなみに他のみんなはいない。
もう寝てしまった。
俺は、少しだけ夜更かしをしていただけだ。
「相談って?」
「ニーナのことなんやけど……」
「ニーナの?」
なんだろう?
特に問題が起きている感じはしないけど……
「ちと過保護すぎたかな……思うてな」
「過保護?」
「悪いヤツに捕まっとった、って話やろ? だから、できる限り一緒にいるようにしたんやけど、それが悪かったみたいでなー。ニーナ、なかなか一人になろうとしないねん」
「それは……悪いこと、なのか?」
「一時的なものならええんやけどな。でも、これがずっと続いたら……」
「あぁ……それは困るな」
誰かが一緒でないとなにもできない、外へ出ることができない。
もしかしたら、そんな風になってしまうかもしれない。
「ただ、ニーナはまだ子供やろ? 無理に一人にさせるのもちゃうかなー、思うて……でも、このままっていうのも……なあ、どないしたらええと思う?」
「うーん」
ティナの言いたいことはよくわかった。
ニーナに自立心を養ってほしい。
でも、まだまだ子供なので無理はさせたくない。
少し考えて、ちょっとしたアイディアを閃いた。
「……なら、こんなのはどうかな?」
――――――――――
「あー、しもた!」
翌日の昼前。
キッチンにいるティナが、ちょっとわざとらしい声をあげた。
リビングにいるみんながキッチンを覗く。
「どうしたんだ?」
「うっかりして昼ごはんの材料買い忘れてしもうたんや。うっかりで」
二度言わなくていいから。
怪しまれるから。
「しもたなー、このままだと昼ごはんはスープだけになってまうなー」
「スープだけだと、私、力が出ないよー」
「あたし、ティナのごはんを楽しみにしていたのにー」
カナデとタニアの演技がひどい。
大根役者もいいところだ。
「せや。ニーナ、すまんけど材料を買ってきてくれへん?」
「わたし?」
「ウチ、他の仕込みがあるから手を離せないねん」
ニーナがカナデとタニアを見た。
「ごめんねー。私、えっと、その……あの……そう! 毛づくろいをしないといけないから!」
「えっ」
そんなことをしているの?
ニーナがびっくりした顔に。
「あたしは……そう、近所の子供達に正しいケンカの作法を教えないといけないの!」
「えっ」
正しいケンカの作法なんてあるの?
ニーナがびっくりした顔に。
「え、えっと……」
ニーナがソラとルナを見た。
「ソラは、ティナのお手伝いをしないと……」
「それだけはやめてください!!!」
「む?」
「えっと……我と姉は部屋の掃除をしないといけないのだ!」
「そう……なんだ」
最後の希望とばかりに、ニーナがこちらを見る。
その期待を裏切るのは心苦しいのだけど……
でも、これはニーナに独り立ちしてもらうための作戦だ。
みんな、適当な用事を口にして一緒に行けず……
ニーナに一人で買い物をしてもらう。
そうやって、色々と学んでもらおう、という企画だ。
なので、俺の答えは……
「ごめん。俺も用事が……道具の手入れをしないといけないんだ」
「……」
ニーナがしょんぼりとした顔に。
寂しそうで不安そうだ。
う……心が痛い。
やっぱり一緒に行くよ、と言ってしまいたくなるけど……
でもダメだ。
ニーナのために心を鬼にしないと。
「悪いけど、ニーナ一人で行ってきてくれないかな?」
「でも……わたし」
「大丈夫。買い物のリストと、それにリンクした地図は用意したから。ニーナは、それに従って買い物をするだけでいいんだ」
「ん……」
「ダメ……かな?」
無理に行かせることはしたくない。
これ以上嫌がるようなら、またの機会。
あるいは別の企画を考えるだけだ。
「……うん」
ややあって、ニーナは小さく頷いた。
「みんなの、ごはんのため……がん、ばる」
「そっか……うん。ありがとう、ニーナ」
不安なはずなのに。
怖いはずなのに。
でも、みんなのためにがんばってくれると言う。
その優しさこそがニーナの強さのような気がした。
読んでいただき、ありがとうございます!
<読者の皆様へのお願い>
「面白い!」「続きが気になる!」「更新をがんばってほしい!」
などなど思って頂けたら、ブックマークや評価をぜひお願いします!
評価はページ下部の【☆☆☆☆☆】をタップすると付けることができます。
ポイントを頂けるとやる気が湧いて、長く続けようとがんばれるのです……!
これからも楽しい物語を書いていきたいと思います、よろしくお願いいたします!