164話 天使少女の現代旅行記・その15『美少女転校生イリスちゃん』
「今日からこの……クラス? でお世話になる、イリスと申します。どうか、よろしくお願いいたしますわ」
教室の壇上で、イリスはにっこりと微笑む。
その笑みはサキュバスも真っ青の魅力にあふれた笑みだ。
異性同性問わず魅了してしまい、クラスの全員が見惚れて……
それから少しの間を置いて、「おおおぉー!」という歓声が湧き上がる。
突然、クラスにやってきた美少女転校生。
しかも、容姿を見るに外国人。
人形のように綺麗で、そして可憐。
ただ可愛いだけではなくて気品がある。
真偽はわからないけれど、深窓の令嬢という言葉がよく似合う。
これだけの転校生がやってきて、湧かないはずがない。
クラスの男子だけではなくて、女子も湧いていた。
イリスを人形のように可愛らしく思い、愛でたいと思っていたからだ。
「ふふ」
その様子を眺めていた芹那は、友達の学校デビューがうまくいきそうだと思い、笑顔を浮かべるのだった。
――――――――――
「ねえねえねえ! イリスさんの髪って、ものすごく綺麗だよね!? こんなのドラマや映画の中でしか見たことないかも」
「日本人じゃないわよね? でも、すごく流暢な日本語で……どこの出身なのかしら?」
「放課後、時間空いてる? よかったら一緒にカラオケとか行かない?」
休み時間。
当たり前といえば当たり前なのだけど、イリスのところにクラス中の女子が殺到していた。
異様な魅力のある美少女転校生。
同性だとしても、嫉妬のレベルを超えている。
仲良くなりたい、色々なことを知りたい……などなど、興味の的だ。
「えっと……」
イリスは女子達の迫力にやや押されている様子ではあるが、一つ一つ、丁寧に質問に答えていた。
ただ、イリスはこの国のことを……世界のことを知らない。
ドラマや映画、カラオケとか言われても、なんのことか。
ちょくちょく小首を傾げてしまう。
ちなみに、男子達はソワソワしつつも、女子達の勢いに負けて、突撃できないでいた。
こういう時、女性の方が強い。
「えっと……みんな、落ち着いてください」
このままだとまずいかも。
芹那が援護に入る。
「みんなの気持ちはわかりますけど、いっぺんに質問したらイリスさんが驚いてしまいますよ? あと、ちょっと迫力がありすぎです」
「あー……確かに」
「ごめんね? そんなつもりはなかったんだけど……って、これ、言い訳になっちゃうか」
「あたし達、イリスさんと仲良くなりたいだけで、怖がらせたり驚かせるつもりはないの。ほんとーに!」
「あら」
途端に落ち着きを取り戻すクラスメイトを見て、イリスは驚いた。
ごはんを目の前にしたカナ……
野生動物のような勢いがあったのだけど、今は、すっかり落ち着いていた。
この状況を作り出したのは芹那だ。
彼女の言葉はまるで魔法のようで、クラスメイト達を落ち着かせた。
芹那の性格と、彼女に寄せられている信頼が為せるものなのだろう。
(この世界に来て、最初に芹那さんと知り合うことができたわたくしは、とても幸運だったのかもしれませんわね)
出会いに感謝しつつ、イリスはクラスメイト達に笑いかける。
「わたくしは気にしていませんわ。それに、わたくしもみなさんと仲良くなりたいので……声をかけていただき、とても感謝しています」
「「「イリスちゃん、マジ天使!!!」」」
正体がバレた? とヒヤリとするイリスだった。
「とりあえず……質問は、一人一つずつ。落ち着いていることが条件です」
「あはは、芹那ちゃん、イリスさんのマネージャーみたい」
「そういう認識でいいですよ。あと、イリスさんって日本語は喋れるけど、ここに来る前はけっこうな田舎で暮らしていたみたいなんです」
「はい、芹那さんの言う通りですわ。なので、知らないことが多く……みなさま方に色々と教えていただけたら幸いです」
「「「任せて!!!」」」
イリスはにっこりと微笑み。
そのスマイルに、女子達、全員の心が撃ち抜かれた瞬間だった。
「っていうか、芹那っち、イリスさんと知り合いなん?」
「やけに親しげだよねー」
「えっと……」
芹那はイリスを見た。
イリスは静かに頷く。
「色々あって、転校する前からの知り合いなんです。それと今、うちに居候しています」
「へー。なんかそれ、運命的だね」
「イリスさんは芹那ちゃんの王子様かもねー」
「なにそれ、妄想がはかどる!」
芹那のおかげで、無事、イリスはクラスに溶け込むことができた。
「「「ちくしょう……俺達も、イリスさんと仲良くおしゃべりしたい……」」」
……ただし、男子を除いて。
◆ お知らせ ◆
新連載です。
『ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?』
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