163話 天使少女の現代旅行記・その14『悪人はなにも知らず』
「ふぅ」
都内の一等地にある豪邸。
その私室で、長良亮斗はタバコを吸い、紫煙をくぐらせた。
ただ、半分も吸わないうちに、やや乱暴に灰皿に押し付けてしまう。
「まったく、頭の痛い……」
先日、とある探偵を雇った。
探偵といっても普通の探偵ではなくて、裏社会にとても詳しい。
また、自身も裏社会の暴力に身を任せているような、そんなろくでもない人間だ。
とはいえ、仕事はきっちりとやる。
腕も立つ。
信頼の置ける人間の一人で、長良は彼のことを重宝していた。
そんな探偵から連絡を受けたのだけど……
「芹奈の近くには化け物がいる? いったい、なにを言い出すんだ、高井のヤツは」
芹奈を尾行していたら、突然、見知らぬ少女に絡まれた。
その少女は、最近、芹奈の隣に身を置くようになった。
ちょうどいい。
この少女から情報を聞き出そう。
いざという時は暴力に訴えることも構わない。
しかし……
高井は返り討ちに遭った。
暴力団の構成員を十人までなら同時に相手にできるという、それこそ『化け物』という称号がふさわしい高井が、まるで相手にならなかったという。
子供のようにあしらわれて。
圧倒的な力の差を見せつけられて。
その少女こそが、真の『化け物』だと言う。
高井は手を引くと言い……
そして、姿を消した。
「高井が子供に負けた? なにをバカな……まったく、薬でもやっていたのか? だとしたら、僕の目も曇っていたようだな。あんなに使えないヤツだったとは」
たった一人の、化け物のような少女に打ち負かされた。
長良は、そんなふざけた報告を真に受けていない。
おそらく、高井はなにかしらのミスをしたのだろう。
長良が聞けば激怒するような、つまらないミスなのだろう。
故に、粛清を恐れて姿を消した。
つまらない言い訳を残して逃げた。
「本当に頭の痛い……」
それなりに信頼していた手駒を失い、長良は、今日、何度目になるかわからないため息をこぼした。
それから、今後のことを考える。
「高井は失ったものの……それまでに、そこそこの情報を手に入れることができた」
芹奈は、なにも変わらない日常を過ごしている。
一人、同居人が増えたようだけど……
それだけ。
いつも通りの日常を過ごしていた。
一方で、藤堂は焦りを見せていた。
目の前に大金が転がっているのだけど、しかし、どうしても手に入れることができない。
焦れている。
故に、街のチンピラを雇いけしかけるなど、直接的な行動に出るようになっていた。
そのチンピラの襲撃は、なぜか失敗したようだが……
「ふむ……まあ、所詮、チンピラのすることだ。失敗した理由は、考えるまでもない、くだらなく愚かなものなのだろう」
芹奈はまったく気づいていないようではあるが、藤堂の魔の手が迫っている。
このまま放置すれば、芹奈は、最終的に藤堂の手に落ちるだろう。
そして暴力で従わされるか、薬で操り人形にされるか……
ろくでもない結末を迎えて、芹奈が持つ莫大な資産は藤堂のものになるだろう。
「それは面白くない。とても面白くない。悲劇的なバッドエンドだ。だからこそ……この僕が、素晴らしいハッピーエンドに変えてみせようじゃないか」
あえて藤蔵の暴走を放置。
そして、際どいところで長良が助けに入る。
そうすれば、芹奈も長良を信頼するだろう。
後見人になることも了承してくれるだろう。
「獣のように愚かな藤堂よ。せいぜい、僕のために踊ってくれ。ふふふ」
物事はスマートに。
綺麗に華麗に。
そう信じる藤堂は、己の勝利と成功を信じて笑みをこぼす。
焦る必要はない。
周囲の愚かなものを利用して、正当な方法で芹奈の大金を手に入れればいい。
それでいい。
「……とはいえ」
芹奈の隣にいるという少女のことは気になる。
高井の戯言を信じるのならば、彼女が高井を退けたことになる。
彼女の力は、この際、どうでもいい。
長良亮斗という存在に噛みついておいて、何事もない。
それは許されないことだ。
舐められている、ということになる。
放置すれば長良の名前に傷がついてしまう。
「芹奈を追い詰めるために、その少女には、少し痛い目に遭ってもらおうか」
◆ お知らせ ◆
新連載です。
『ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?』
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