151話 天使少女の現代旅行記・その2『出会い』
「あら?」
声が聞こえてきた方を見ると、四人の男女がいた。
一人は若い少女だ。
外見だけでいうと、イリスと同じくらい。
対する男達は二十代くらいだろう。
身につけている服は派手。
そして、軽薄そうな笑みを浮かべていた。
「絶対楽しいから。ね? 一緒に行こう?」
「だから、一緒になんて行きませんから! そもそも私、えっと……そう、学校に行かないと!」
「こんな時間に出歩いているのに? 嘘でしょ、それ」
「いいじゃん、いいじゃん、学校なんて。それよりも、俺達がもっと楽しいことを教えてあげるから」
「ですから……!」
「はい、決まり! じゃ、いこーか。はい、一名様、ごあんなーい」
「あっ、ちょ……!? や、やめて……!」
男達は少女を強引に連れて行こうとする。
三人が壁となり、巧妙に周囲からの視線を遮断していた。
ここは異世界なので、ナンパに見えて、実のところ、まったく別の行為かもしれない。
事情は不明だ。
ただ……
「その場にいるだけで周囲を不愉快にさせるなんて、一種の才能かもしれませんわね」
イリスは狩りをする虎のように目を細くしつつ、男女のところへ歩み寄る。
「もし」
「あ? なんだよ……って、おぉ! めっちゃタイプ」
「なに、この子? キミの友達?」
「いや、すげーわ。今日、めっちゃラッキーデイ? 俺等、普段の行いがいいから、神様がご褒美をくれたんだろうな」
男達が品のない笑い声を重ねた。
イリスはこめかみの辺りをひくつかせる。
それに気づいていない様子で、男の一人がイリスの肩に手を伸ばす。
「ねえねえ、キミも一緒に遊ばない? ぜってー楽しく、気持ちよくなれるからさ」
「汚い手でわたくしに触れないでくれません」
「……あ?」
「あと、この世界は不思議ですわね。まさか、ゴミが人語を解するとは思っていませんでしたわ」
イリスは小馬鹿にするような笑みを浮かべつつ、特大の煽りをぶちかます。
男はキレた。
彼は、三人の中で一番短気で、そして、一番容赦がない。
相手が子供であれ老人であれ、不快にさせたのなら確実に殴る。
殴って黙らせて土下座させる。
暴力で相手を従えてきた。
故に、男は迷うことなくイリスに拳を繰り出して……
「えっ」
気がつけば男は宙を舞っていた。
ふわっとした一瞬の浮遊感。
直後に地面に落ちて、激しく叩きつけられた。
「がっ……!?」
男は涙を流して悶えて……
その様子を仲間達はぽかんと見る。
「あら、あら。勝手に転ぶなんて、不幸な方ですわね。ふふ」
「て……めえっ!!!」
「たっくんになにしやがった!?」
残り二人が激高してイリスに殴りかかる。
しかし、その拳が彼女に届くことはない。
男達の何倍も速くイリスが動いた。
そして、男達がそうしようとしたように、容赦なく殴りつける。
ぐーで。
「「へぶぅっ!?」」
男達はまとめて吹き飛んだ。
ぽーんと欠けた歯が飛ぶ。
まるでギャグ映画のようだ。
「えっと……?」
残された少女は、突然の展開についていけず唖然とするしかない。
イリスは、そんな少女の手を取る。
「さあ、いきましょう」
「え、あ……で、でも?」
「大丈夫ですわ。一応、手加減はしているので死んではいません。運がよければ、また自力で歩くことができるようになるでしょう」
ということは、運が悪いと歩けなくなるのだろうか……?
少女はそんな答えを想像するが、あまりに物騒なので考えるのを止めた。