145話 運動会・その9
残る競技は、借り物競走と赤白対抗リレー。
リレーは運動会の締めくくりにふさわしいので、先に借り物競争が行われることになった。
「カナデの仇は我らがとってやるのだ!」
「ソラ達ならば負けません」
ソラとルナが出場することに。
赤いはちまきを頭に巻いて、気合は十分。
とはいえ、二人は運動が得意ではないから、ちょっと心配だ。
この際、勝敗はどちらでもいいのだけど、転んで怪我とかしないでほしい。
「ふふ、よろしくお願いしますね」
対する白組は、ノキアさんが含まれていた。
優しく、穏やかな表情。
しかし、俺達は知っている。
いざという時、とても怖いのだ。
決して侮ることはできない強敵だ。
「位置について、よーい……ドンッ!!」
審判の合図と共に選手がスタート……
……しない。
「お、おい……これ、普通の借り物競争だよな? 普通なんだよな?」
「お、俺に聞くなよ……」
「妙な仕掛けがあったら……やだ、私、まだ死にたくない!」
『おおっと、なぜか選手一同、怯んでしまっている! なぜだ、なぜこんなことが起きているのでしょうか!? 平和で笑顔たっぷりの運動会なので、ぜひ、楽しんでいただきたいところです!』
「「「どこに平和と笑顔があった!!!?」」」
選手一同、渾身のツッコミが炸裂した。
「ふっ、あれらのトラップで我を止めることは不可能! ゆくぞ、姉よ!」
「ええ。ソラ達の力を見せてあげましょう!」
選手達が怯む中、ルナとソラが駆け出した。
おぉ、と選手と観客達が歓声をあげる。
あの二人に怖いものはないのか?
あの二人こそ、真の勇者!
「負けませんよ」
ただ、ノキアさんも負けていない。
二人を追いかけて駆けていく。
差はあっというまに縮まり、その勢いのまま抜かされてしまう。
「ぐぬぅ!? こういう時こそ、我らが引きこもり族であることが恨めしい!」
「だから、ソラ達は引きこもりではありません!」
二人はあっさりと追い抜かされてしまったものの、しかし、それで勝負が決するわけではない。
これは、借り物競走。
お題によっては、一気に逆転が可能だ。
「これは……」
最初にお題が書かれた札を手に取ったノキアさんは、困った顔になった。
けっこうな難題を引いてしまったのかもしれない。
遅れて、ぜーはーぜーはーと息を切らしたソラとルナがお題を手に取る。
「「っ!?」」
二人は驚いたような顔をして……
次いで、こちらを見た。
そのまま、ズンズンと歩いてきて……
「レイン、一緒に来てほしいのだ!」
「一緒に来てください!」
「え、俺?」
いったい、どんなお題が書かれているのだろう?
とはいえ、確認する時間も惜しい。
俺はソラとルナと一緒にゴールへ向かう。
「えい」
一方のノキアさんは、ごそごそとポーチを探る仕草をして、そこからピアノを取り出した。
それを手に取り、再び足を進めて……
「って、ノキアさんのお題はピアノなのか!?」
「「「運営はなに考えてやがる!?」」」
観客一同、ツッコミが入る。
ピアノなんて借りることはできないし、持ち運ぶことは不可能なのだけど……
ノキアさんは、それらを全て可能にしてしまう。
「ソラ、ルナ、急ぐぞ!」
「うむ!」
「はい!」
さすがのノキアさんもピアノは重いらしく、足が鈍っている。
俺達は必死に走り、その間になんとかゴールすることができた。
「やったのだ!」
「勝ちましたよ!」
『勝利に喜ぶソラ選手、ルナ選手。しかし、正しいものを借りてきたかどうか!? 適当なものだった場合、お題にそぐわないものだった場合は失格となります。さあ、審判。ジャッジをお願いします!』
みんなの視線が審判に注がれた。
多数の注目を浴びつつ、審判はソラとルナのお題を読み上げる。
「ふむ。二人のお題は同じものですね。その内容は……好きなもの、です」
「ふふん! 我は、主であるレインのことが好きだぞ」
「ソラは、まあ、その……嫌いではないというか、好きな方であるといいますか」
「合格!」
「「やったーーー!!!」」
審判から合格をもらうことができて、ソラとルナは抱き合って喜んだ。
遅れて、ノキアさんがやってきてゴール。
他の選手達も、危険はないとわかり、次々とゴールをする。
『不安が渦巻いていた会場ですが、なんと、ソラ選手とルナ選手の愛がみなさんを笑顔にしました! 心に明かりを灯してくれました! なんていう素晴らしい愛なのでしょうか! さあ、みなさん。この三人の幸せな門出を祝い、拍手をどうぞ!!!』
「「「おぉおおおおおーーー!!!」」」
「ちょ……」
なんか、とんでもない展開になっている!?
「にゃー……あの二人、良いところだけをかっさらうなんて……」
「……ちょっとおしおきが必要ね」
「むー」
「ちと、おいたがすぎるなぁ」
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またまた余談ではあるが。
その後、ちょっとした場外大乱闘が発生して、運動会は一時中断するのだった。