１４３話 運動会・その７
障害物競走を見ると、この後も、とんでもないものが用意されているのでは？ とちょっと疑惑を抱いたのだけど……
続く大玉転がし、綱引きはどこにでもあるような普通の内容だった。
ちなみに、俺達赤組は、どちらも総合ニ位。
白組はミルアさんとノキアさんが出場して、どちらも一位をかっさらっていった。
本当に手強い。
続けて棒倒し。
これは引き分けに終わり……
そして、前半が終了。
休憩の昼食タイムが訪れた。
「あーーーっ、悔しい！」
障害物競走のことをまだ引きずっているらしく、タニアはおにぎりを食べつつ、吠えた。
ちろっと炎が漏れ出して、焼きおにぎりになってしまっている。
「なんなのよ、あの障害物競走は。ここの運営、頭おかしいんじゃないの！？」
「まったく反論できへんなぁ……」
「同じく……」
「でも、他の競技は、今のところまともだよね？」
「普通……だね」
「徒競走、大玉転がし、綱引き、棒倒し……いずれも普通のものだったのだ」
「障害物競走だけが特別だったのか、後半に特別がたくさんあるのか……判断に迷うところですね」
できれば前者であってほしい。
障害物競走の調子でおかしな競技が出てきたら、さすがのみんなも危ない。
というか、一般参加の人達はもっと危ないぞ。
「あとは……パン食い競走と借り物競走」
「騎馬戦と玉入れとリレーですね」
「……パン……」
カナデがじゅるりとよだれを垂らしていた。
今、昼を食べている最中なんだけど……
食欲が底知れないな。
「まあ、運営も怪我人が出るような無茶はしないだろ。基本、楽しむことを一番にがんばっていこう」
「「「おーーーっ！！！」」」
……なんて、この時はとても甘いことを言っていたと、後々で後悔させられるのだった。
――――――――――
午後の部、最初の競技は騎馬戦だ。
普通の騎馬戦は、三人が組んで馬となり、一人がその上に乗り、はちまきなどを奪い合うというものだけど……
「ヒヒーン！」
「「「本物の馬を使ってきたあああああ！？」」」
俺達だけではなくて、参加者全員の魂のツッコミ。
しかし、解説のナタリーさんは怯むことはない。
『さあ、やってまいりました、騎馬戦です！ この日のために特殊な訓練を受けて、特殊な装甲をまとった暴れ馬を前に、立ち向かえる人はいるのでしょうか！？ 暴れ馬についているシールを取れば１点！ 競技終了までに、たくさんの点数を稼いだチームの勝利となります！』
「……なあ、姉よ」
「……なんですか、ルナ」
「……我の知る限り、角が生えていて、全身が筋肉のようで、闘争心が剥き出しで……あのような馬はいないと思うのだが？」
「……奇遇ですね。ソラも、あれは馬ではなくて猛牛だと思っていました」
『なお、特殊な訓練を続けていたら、馬が進化してちょーーーっと特別な姿になってしまいましたが、気にしないでください。あれは、あくまでも馬です！！！』
「「「そんなわけあるかーーーっ！！！」」」
再び参加者全員のツッコミが炸裂した。
「くそっ、こんなのやってられるか！」
一人の冒険者が舌打ちして、逃げ出そうとした。
と、その時。
「ヒヒーンっ！！！」
『おおっと！ 今になって逃げ出そうとした臆病者を前にして、馬がお怒りです。とても怒っています！ 飼育員の制止を振り切り、猛然と駆け出しました！』
「ちょっ……ぎゃあああああ！？」
『哀れ、最初の犠牲者が出てしまいました！ さあ、突発的ではありますが、競技開始です！ 見事に生き残る……ではなくて、勝ち残る選手は誰でしょうか！？』
ナタリーさん、人格が変わっていないか？
ものすごくいきいきとしてて、楽しそうなんだけど……
「ぎゃーーー！！！？」
「ひぃっ、た、助けてくれ！」
「お、俺には妻と子供が……うわあああ！？」
馬……？ が暴れ回り。
選手が逃げ回り。
そして、悲鳴が響き渡る。
会場は阿鼻叫喚の地獄になっていた。
「にゃー……人間の運動会って怖いね」
「お願いだから、これを普通と考えないでくれ」
