138話 運動会・その2
時間は流れ、運動会当日になった。
『おまたせしました! これより、ホライズン大運動会、第54回大会を開催いたしますーーー!!!』
バンバンと昼の青空に花火が咲いて、運動会の開催が告げられる。
ちなみに、実況&解説はナタリーさんだ。
特殊な魔導具を使い、その声を街全体に響かせている。
「いよいよね!」
「わくわくするにゃ!」
カナデとタニアは赤のはちまきを巻いて、気合を入れていた。
俺達も赤のはちまきを頭に巻いている。
ホライズンの冒険者、住民が赤と白のチームに分かれて、協力して勝利を目指すという方式だ。
その中でMVPなどが表彰されて、個人に賞品が送られる。
「それにしても……」
ソラがちょっと恥ずかしそうに言う。
「この衣装、なんとかならなかったのでしょうか?」
「ぶるまというヤツだな。我は好きだぞ?」
「白、黒」
上はシンプルな白のシャツ。
下は……紺のショートパンツ。
というか、パンツに近い。
運動会の規定で、女性はこの格好が正装らしい。
ソラが恥ずかしがるのも仕方ない気がする。
カナデ達は尻尾があるから、専用に改造してもらっていた。
「なあなあ、レインの旦那。どんな種目があるんやっけ?」
「えっと……」
律儀に用意されている、運動会のパンフレットを開いた。
「徒競走に障害物競走にパン食い競走。大玉転がし、玉入れ、綱引き。借り物競走と棒倒しと騎馬戦。最後に、赤白対抗リレーだな」
「けっこうあるんやな」
「パン食い競走♪」
カナデが尻尾をふりふりさせていた。
「聞かない種目も多いわね? 騎馬戦ってなにかしら」
「俺もよくわからないんだよな。ただ、複雑なルールの種目はないらしい。事前の説明でわかるみたいだ」
あと、実演もしてくれるらしいので、問題はないだろう。
「ふふん。どんな種目でも問題ないのだ! 全て、我が勝利を掴んでみせる!」
「ソラ達の体力で、よくもまあ、そこまで大きなことが言えますね」
「どやっ」
「褒めてませんからね?」
「まあ、やる気があるのはいいことだから」
「えいえい、おー」
ニーナも気合十分だ。
「でも、あたし達がいれば敵はいないわね」
「優勝一直線だよ!」
「それはどうかな?」
「にゃにやつ!?」
振り返ると、不敵な笑みを浮かべる女性が四人。
その正体は……
「お母さん!?」
「母さん!?」
「母上!?」
「ママ!」
スズさん、ミルアさん、アルさん、ノキアさん。
カナデ、タニア、ソラ&ルナ、ニーナの母親だった。
「ど、どうしてお母さんがここに……っていうか、そのはちまき」
「もしかして……母さん達も運動会に参加するの?」
「ふっふっふー、もちろんだよ!」
ミルアさんが、その豊満な胸を張り、笑顔たっぷりで応える。
「こんな面白そうなこと、見逃すわけにはいかないからね! タニアちゃん、勝負だよ!」
「勝負は別にいいけど……里の仕事はいいの?」
「大丈夫! ちょっとくらい休憩しても、問題ないもん」
「後で、あたしに泣きついたりしないでよ? いつものパターンじゃない」
「え? そんなこと、したことないよ? あはは、タニアちゃんってば、冗談が上手なんだからー」
「……記憶から消しているわね」
とんでもないものを見た、という感じで、タニアが汗を流していた。
「お母さん達、白組なんだね?」
「はい、そうですよ。カナデちゃん達と一緒だと、勝負は決まってしまいますからねー」
「まぁ、妾達が白組になった時点で、白組の勝ちではあるがのう。つまり、妾達がどのチームに所属しているか。そこが勝敗の鍵なのじゃ」
「なあ、姉よ。我らと同じく、母上も運動が苦手という記憶があるが?」
「なぜあそこまで自信たっぷりなのか、謎ですね」
アルさんらしいといえばアルさんらしい。
「ニーナ、今日はがんばりましょうね」
「うん、がんばる」
「でも、無理をしたらいけませんよ? 怪我なく、楽しむことが一番ですからね」
「ママ、も……気をつけてね?」
「はい、もちろんです」
「えへへ」
こちらは、とてもほっこりする光景が広がっていた。
「ええなー。こういうの、めっちゃ癒やされるわー」
「わかる」
「うちもレインの旦那に甘えてええ?」
「え!? いや、それはちょっと……」
「なんや、いけずやな。レインの旦那となら、夜の運動会をしてもええんやで?」
「えぇっ」
「夜も……運動会、するの?」
「に、ニーナ!? いや、今のは冗談というか……」
「うち、本気やで?」
「えぇ!?」
「レインさん? ニーナになにを吹き込んでいるのですか?」
「いや、俺じゃなくて!?」
……運動会とはまったく別のところで、色々と波乱の予感がするのだった。