128話 人狼ゲーム・その1
「人狼ゲームをいたしませんか?」
特に依頼も受けておらず、宿でのんびりしていると、ふと、イリスがそんなことを言う。
「にゃん? じんろーゲーム?」
「簡単に言うと、皆で話し合い、仲間の中に潜む犯人を当てるゲームですわ」
人狼ゲームなら俺も知っている。
特に道具は必要としないで、みんなで話し合いをして犯人を探る、推理要素の強いゲームだ。
舞台は辺境の村。
人に化けた人狼が村に紛れ込んだため、村人は人狼を見つけなければいけない。
村人は話し合いを重ねて、人狼が誰なのか推理する。
人狼は自分の正体を隠して、犯人でないと欺く。
昼と夜のターンがあり、昼は村人のターン。
一定時間の話し合いの後、投票で人狼と思われる容疑者を吊るす。
夜は人狼のターン。
村人を一人、襲撃する。
交互にターンを重ねていき、村人が人狼を全て吊るすことができれば村人側の勝ち。
逆に、人狼が生き残った村人と同数になれば、人狼側の勝ち。
……という、誰が敵で誰が味方なのか? という推理要素のあるゲームだ。
「はい、質問!」
「ルナさん、どうぞ」
「それ、どうやって人狼を特定すればいいのだ? 話し合いをするにしても、無理ではないか?」
「そうですね。ソラが人狼だった場合、ソラは人狼です、と自白するわけがありませんし……」
「特定をするために、いくらか特殊なロールがありますわ」
村人は、特になにも能力を持っていない。
ただ、他に特殊な力を持つロールがある。
まずは、魔法使い。
一人を指定して、その者が人狼か否か見抜くことができる。
続けて、冒険者。
一人を指名して、その者が人狼に狙われた場合、襲撃から守ることができる。
ただし、自分を守ることはできない。
そして、恋人。
二人一組で、村人側に適用される。
パートナーを人間と判断できるメリットがあるものの、パートナーが死亡した場合は、後を追い死んでしまうというデメリットもある。
また、村人だけではなくて、人狼にも特殊なロールを持つ者がいる。
それがバーサーカーだ。
人狼サイドにカウントされて、人狼同士で味方と見抜くことはできない。
ただ、魔法使いの能力で正体を見破られることはない。
人狼が有利になるように嘘を吐くなどする、厄介な相手だ。
ただ、人狼はバーサーカーの正体を知ることはできない。
「とまあ、このようなロールがありますわ」
「なるほど……それらの能力を活用して、推理を重ねていく、というわけですね?」
「はい。本当は、もっと細かいロールがあるのですが……みなさん、初心者のようですから、これ以上増やさない方がよろしいでしょう」
「なんだか楽しそうね」
「わくわく」
「ぼく、人間は食べないよ?」
とりあえず、やりたくない、って人はいないみたいだ。
「みなさん、ルールは理解できまして?」
「「「はーい」」」
「では、試しに一回やってみましょう。えっと、進行役は……」
「それでしたら、わたくしにお任せ願えませんか?」
コハネが名乗りをあげた。
「こういうことは得意なので」
「そうですか? でしたら、お願いいたしますわ」
「はい。任されました」
コハネはにっこりと微笑むと、紙を素早く切ってカードを作り、なにかを書き込む。
ロールを書き込んでいるのだろう。
「はい、できました。カードにロールを書いたので、他の方にバレないようにしてくださいませ」
コハネがカードを配る。
妙に慣れているけど、経験者なのだろうか?
神様と一緒に遊んでいた……とか?
「ふむ」
カードを確認すると、俺は人狼だった。
「コハネ、質問いいか?」
「はい、なんなりと」
「人狼って、ルールとかわりと自由に設定できるだろう? 今回、人狼は何人なんだ?」
「二人でございます。もちろん、その二人は、後で相手を確認することが可能です」
「なるほど」
「バーサーカーは一人。冒険者は一人。魔法使いは一人。恋人は一組、となっております」
やや村人が不利かな?
いや。
人数が多いから、平等かもしれない。
とりあえず、やってみないことにはなんとも言えないか。
「では、みなさま、一度、目を閉じて顔を伏せてくださいませ」
言われた通りに、目を閉じて顔を伏せた。
「人狼の方、顔を上げてくださいませ」
顔を上げると、同じタイミングでライハも顔を上げた。
「……」
ニヤリ、とライハが悪い顔をした。
人狼が似合っているなあ、と心の中で苦笑する。
「では、人狼の方、もう一度目を閉じて顔を伏せてください」
言われた通りにする。
「続きまして……」
恋人ペアの発表。
それから、魔法使いが誰を占うか? を確認して、ゲームが開始される。
「では、人狼ゲームを開始いたします。皆様方の健闘をお祈りいたします」