127話 私立ビーストテイマー学園・その21
彼女の名前は、ナタリー。
都内の会社で働くOLだ。
結婚願望はあるものの、未だ、いい相手に巡り合わない。
でも、問題ない。
彼女には、心を癒やしてくれる趣味がある。
それが同人誌だ。
色々なマンガのIFの話。
作者によって話の展開が異なり、そんな内容が!? と驚くこともある。
時に、同人作家からプロが生まれることもある。
そんな同人誌の世界をナタリーは愛していた。
だから、小さな即売会でもできる限り参加するようにしていた。
今回参加したのは、コミックファイト。
小規模で、まだまだ歴史は浅い。
でも、運営の熱が伝わってくるかのような即売会で、とても楽しみにしていた。
「さて、次はどこを見ましょうか?」
ナタリーは会場を見回して……
ふと、端の方にブースを設けているサークルに気がついた。
なにやらコスプレ美少女がたくさんいた。
新刊の宣伝をしているみたいだ。
「はっ」
ナタリーは鼻で笑う。
可愛い子に可愛い格好をさせて、宣伝をする。
人の目を引くことは間違いないが、そんなもので本が売れるわけがない。
同人誌を愛するものは、同人誌の中身に引かれるのだ。
可愛い子がコスプレをしても、だからなに? となる。
ナタリーはその場を立ち去ろうとして……
「あら?」
くいっと服の端を引っ張られた。
見ると、小さな狐耳の女の子が。
こちらもコスプレをしてて……
しかも、とてつもなく似合っていた。
天使!
ナタリーは心の中で絶叫する。
「本……買って?」
「はい!!!」
――――――――――
「ふっふっふ。ニーナの可愛さは、全ての常識を覆す。勝てる者はおらんで」
「えっと……ティナ先生、なんか悪い顔になっていますよ」
とはいえ、おかげで本が売れ始めていた。
元々、ソラとルナの描いた本は面白い。
ただ、初参加で無名。
故に誰も手に取らず、注目もされていなかった。
でも、一度注目をされれば違う。
たくさんの人がやってきて、試し読みをして、購入。
そんな流れが出来上がり、いいペースで売れていた。
この分なら完売も夢ではない。
「我が姉よ、これならば……!」
「初参加で完売! 素敵な結果になりそうです!」
「よーし、みんな。二人のためにがんばろー!」
「「「おー!」」」
コスプレをしたみんなが気合を入れて、売り子に励む。
いつの間にかサポートに参加してくれていたティナ先生もノリノリだ。
メイドのコスプレをして、とてもいい笑顔を振りまいていた。
「なんだかんだ、誰よりも楽しんでいそうだよな」
教師なのに、いいのだろうか?
同僚に見られたら大変なことになりそうだけど……
「あら?」
「お?」
そんなことを考えていたせいか、スズ先生とミルア先生の姿が。
「あ」
目が合い、ティナ先生が固まる。
だがしかし。
コミックファイトの会場にいるということは、スズ先生とミルア先生も同士ということ。
それを理解しているらしく、三人は視線を交わして、
「……」
「……」
「……」
ぐっ、と親指を立てた。
「にゃー、どうしたの、レイン?」
「いや……好きなものを好きな人達は、色々と細かいところは気にしないんだなあ、って」
「???」
……なにはともあれ。
本は無事に完売。
コミックファイトは大成功で終わりを告げるのだった。