126話 私立ビーストテイマー学園・その20
しばらく後の休日。
この日、コミファイ……コミックファイトが開催されることになった。
場所は、市が所有している建物だ。
大きくもなく、狭くもなく。
反社会的でなければよし、という条件で、色々な団体が借りているらしい。
「やってきました!」
「コミファイ!」
俺達のブースは端の端。
あまり目立たないところだけど、ソラとルナに言わせれば、わりと良い場所らしい。
すでに設営は完了。
同人誌も運び込んでいる。
確かに力仕事なので、二人だけだったら大変だ。
ソラとルナ以外のみんなは、更衣室だ。
コスプレをして売り子をするので、着替えている。
どんなコスプレなのか?
そこは聞いていないので、ちょっと興味がある。
「あとは、どうすればいいんだ?」
「レインは、なにかあった時のために、ブース内で待機してもらえますか?」
「基本、イベントに参加する人はマンガを愛しているので、妙なことはしないのですが……たまに、そういう妙なことを目的に参加する人もいるので」
「コミファイは小規模イベントなので、いないとは思うのですが、念のため」
「わかった、なにかあったらみんなを守るよ」
「は、はい……お願いします」
「た、頼りにしているのだ……」
なぜか、二人が赤くなる。
「……我が姉よ。レインは、わりと良物件なのではないか?」
「……そうですね。趣味に理解を示してくれるだけではなくて、進んで協力してくれます」
「……そして、優しくて頼りになる。我はドキドキしてしまうぞ」
「……ソラもです」
なんの話をしているのだろう?
気になっていると、
「おにゃたせー!」
カナデの元気な声が聞こえてきた。
着替えが終わったのだろう。
姿を見せたカナデは……
「ねえねえ、これ、どうかな? 私、コスプレって初めてなんだよねー」
魔法少女のコスプレをしていた。
その作品を見たことはないけれど、学生服をモチーフにした魔法少女は全国的に有名だ。
とても可愛らしく、似合っているのだけど……
「ねえねえ、どう? どう? 似合っている?」
「に、似合っているけど、その……あまり動かないでくれ」
「え、なんで?」
「いや、その……スカートが短いから……」
「ひゃ!?」
カナデは赤くなり、慌ててスカートを押さえた。
「まったく、あんたはなにやってるのよ」
「はしゃいだらダメでありますよ」
他のみんなも遅れてやってきた。
同じく魔法少女のコスプレをしてる。
ただ、微妙に細部が異なっていて、カラーバリエーションもあった。
キャラが違うのかな?
「わたし……似合って、いる?」
「せやな。ニーナは天使やでー」
ティナ先生も引率として参加していた。
引率という名目だけど、同人誌即売会に生徒だけで参加してはいけない、なんて決まりはない。
ただの興味本位だ。
でも、楽しめればなんでもいいか。
「これ……スカート丈が短くありません? その、見えてしまいそうですわ」
「大丈夫ですよ、イリス。そのための短いスカートですから」
「ぜんぜん大丈夫ではありません!?」
「見せパンなのだ」
「見せたくないですわ!」
「ボクは別にいいよ?」
「ぼくも!」
「うん、うん。リファとサクラは、もちっと、女の子らしい慎ましさを持とうなー」
しっかりと私生活も指導するティナ先生だった。
「まあ、撮影はないので大丈夫です。屋内なので、風が吹く心配もないですし」
「あたし達はなにをすればいいの?」
「売り子なのだ。あと、列整理とか宣伝とか」
「ふーん。やることは、わりと普通なのね」
「でも、コスプレする意味はあるのかな? まあ、私は楽しいけど」
「わふ! お祭りみたい!」
「うむ、そうなのだ。コミファイ……同人誌即売会はお祭りなのだ!」
「時間ができたら、交代交代で見て回りましょう」
そんなわけで……
『これより、第五回、コミックファイトを開催いたします』
運営のアナウンスと共にコミファイが開始された。
しかし、この後に待ち受けている悲劇を、俺達はまだ知らない……
――――――――――
「「「……」」」
開始1時間。
売れた本……0冊。
ソラとルナはどんよりとした顔に。
「まさか、1冊も売れないなんて……」
「同人誌は数ではないのだ……でも、売れないのは寂しいのだ……」
お通夜ムードだ。
うーん、なんで売れないんだろう?
手伝ったからわかるんだけど、二人の描いたマンガは面白い。
原作に対する愛があって、リスペクトもされていて、それでいてオリジナル要素も詰め込んでいる。
初心者は完売は難しいと聞くけど、1冊も売れないほど厳しい世界なのだろうか?
「宣伝が足りないのかな?」
「うんうん、そうかもね」
「イリス。あんた、脱ぎなさい」
「なぜですの!?」
「客寄せよ」
「警官を呼び寄せてしまいますわ!」
さて、どうしよう?