122話 私立ビーストテイマー学園・その17
「「「王様、だーれだ?」」」
「わ、ワタシです……」
フィーニアが、恐る恐る手を挙げた。
「ひぃ!? ごめんなさいごめんなさい、ワタシなんかが王様になってごめんなさい!」
「くすっ。謝らないでよろしいですわ。今、この時はフィーニアさんが王様。誰よりも偉いのですわ」
「だ、誰よりも……?」
「あなたの命令は絶対。わたくし達は、それに従うことしかできない」
「……絶対……」
「さあ、王様。あなたの欲望の赴くまま、命令を下してくださいな?」
「……ふ、ふふふ……」
やばい。
なんか、フィーニアがおかしな雰囲気に。
「ちょっと、イリス。なんで煽るようなことを言っているのさ!?」
「そうよ! ああいうおとなしい子ほど、こういう時は怖くなるのよ」
「あら。それが楽しいのではありませんか」
「変な命令をされたらどうするのだ!?」
「それはそれで、ドキドキいたしますわ。ふふっ。リスクがあるからこそ、王様ゲームは楽しいのですよ? わたくし自身が安全なところにいても、つまらないだけですわ」
「イリスのアネキ、かっこいいっす!」
「ドキドキ、楽しい」
リファも乗り気だった。
ええい、もうどうにでもなれ!
「ふ、ふへへへ……」
みんなに注視される中、フィーニアが命令を口にする。
「じゃ、じゃあ……」
「「「……ごくり……」」」
「5番と9番が……き、き……きしゅ、です!!!」
「「「っ!?!?!?」」」
なにか様子がおかしいから、大胆な命令が来るかもしれないと思っていた。
しかし。
しかし、だ。
まさか、あのフィーニアから、キスという単語が飛び出すなんて!?
「誰だ!? 誰なのだ!?」
「5番と9番は誰ですか!?」
「あー……5番は俺だ」
「「「っ!?!?!?」」」
みんな、驚いて。
くわっ! と、目を大きくして。
最後に、色々な意味で慌てる。
「れ、れれれ、レインが!?」
「っていうことは、レインのファーストキスが奪われる!?」
「誰?」
「ふふ。これはこれで、とても面白い展開ですわね」
「あ、アニキ……自分は、自分は!」
「おー?」
「……って、ちょっと待つのだ」
ルナが、ふと、なにかに気づいたように言う。
「さっきから、じっと沈黙を保っている者がいる……それはつまり、我らが興味を持つことに興味を持っていない、ということ。すなわち、残りの9番のものなのだ! そうではないか……ニーナよ!?」
「ん」
ルナの詰問に、ニーナは小さく頷いた。
「わたし、9番……だよ?」
「「「っ!?!?!?」」」
みんな、「まさかこのようなところに伏兵が!?」というような顔に。
いや。
自分で思っておいてなんだけど、どんな顔だ、それ?
「にゃ、にゃにゃにゃ、レインとニーナが……き、ききき……」
「そ、それはダメよ! いくらなんでも、初等部のニーナとなんて……」
「うむ、事案なのだ」
「あら? ですが、王様の命令は絶対ですわ」
「イリスは、それでいいのですか?」
「わたくしは、楽しければなんでも♪」
小悪魔だった。
学園の天使と呼ばれている存在なのだけど、中身は黒い。
「レイン」
ニーナが俺の前にやってきた。
そして、じっと、なにかを求めるようにこちらを見上げる。
「キス……しよ?」
「「「積極的っ!!!?」」」
「ん」
ニーナが目を閉じる。
催促しているのだろう。
いや、でも。
本当にそんなことをするわけには……
というか、なんでニーナはこんなにも抵抗がないんだ?
いくら初等部だからといって、キスの意味を理解していないということはないだろう。
疑問を口にすることもないし……
待てよ?
キスは理解しているけど、その本当の意味は理解していないのかもしれない。
そうだ。
そう考えると納得がいく。
つまり、ニーナにとってキスは……
「よし、わかった」
「「「っ!?!?!?」」」
俺は、ニーナの肩にそっと手をやる。
そして、そっと顔を近づけて……
「ふぁ」
ニーナのおでこにキスをした。
「ん、ありがと」
ニーナは満足そうに笑う。
そう。
つまり、これで正解。
ニーナにとってのキスは、親愛の証。
親が子にするようなもので……
ラブではなくてライクだ。
だからこそ、特に抵抗なく受け入れていた、というわけ。
とはいえ……
「ふぅ……色々な意味で焦った」
これ、すごく心臓に悪いな。
「まったく……つまらない結果ですわ。もっとこう、ハラハラドキドキ、わくわくの展開を求めていたのですが」
「「「いーりーすぅうううううーーー」」」
「あ、あら……? み、みなさん? そのように眉を吊り上げて、どうなさったのですか? これは、ただの遊びで……」
「「「やりすぎ!!!」」」
……その後。
みんなの手で、イリスは泣いてごめんなさいと言うまでお仕置きをされるのだけど、それはまた別の話。