121話 私立ビーストテイマー学園・その16
「と、いうわけで……王様ゲームですわ♪」
とても楽しそうに言うイリスの背中に、小悪魔の羽と尻尾が生えているように見えた。
なんてものをチョイスするんだ。
いくらなんでも王様ゲームはないだろう。
ほら。
アクスなんて、勉強でヘトヘトだったのに、ものすごく元気になっているし。
「王様……げーむ?」
「し、知らないでしゅ……」
「ふふ。王様ゲームというのは、古来からある、とても由緒正しい遊戯なのですわ。歴史書によると、かの有名なナポ○オンも興じていたとか」
「すごい!」
サクラ、騙されないでくれ。
そんな歴史書、あるわけないから。
「ルールは簡単。このように数字が書かれたくじを作り、当たりを引いた方が王様。1番と2番が握手をする、というような命令を繰り返していく、というものですわ」
「あら、意外と簡単なルールなのね」
「というか、簡単すぎではないか? それ、盛り上がるのか?」
「ふふ、ふふふのふ。王様ゲームの醍醐味は、王様の命令は絶対、ということですわ」
「「「っ!?」」」
みんな、「なんだと!?」というような顔に。
「例えば……1番と王様がキスをする、という命令も可ですわ」
「「「っ!?」」」
「1番がレインさまで、王様がわたくし、というシチュエーションもありますわね」
「「「っっっ!?!?!?」」」
カナデ、タニア、ライハの尻尾がピーンと立つ。
ニーナとサクラは、不思議そうに小首を傾げていた。
「欲望ある者とない者、ものすごくわかりやすく分かれましたね」
「はぁ……というか、私はそんなくだらないゲームに付き合うつもりはないわよ?」
「まあまあ、セル。たまにはいいじゃねえか。それとも、俺が他の女の子とあんなことやこんなことになることを恐れてぐほぁ!?」
調子に乗るアクスが、委員長の裏拳で沈んだ。
「大丈夫ですわ。今のは、あくまでも例え。際どい命令は、基本、NGですわ。それに、本人に拒否権もありますから」
「まあ……そういうことなら」
「ちょっとくらい、いいか?」
なんてことを思ってしまったのだけど、それが間違いだった。
――――――――――
「「「王様、だーれだ?」」」
「私!」
王様ゲームを始めて、最初にカナデが王様に選ばれた。
カナデなら無茶な命令はしないだろうと、みんな、安堵する。
「えっと……それじゃあ、3番が5番に膝枕!」
思っていた通り、穏やかな命令が飛び出して……
「……はっ!? これじゃあ、私、なにも関係ない!?」
命令のミスを悟り、カナデがショックを受けていた。
「命令のやり直しは無効ですわ」
「そんなぁ……」
「えっと……それで、3番と5番は?」
ちなみに、俺は4番だ。
「わたし……3番」
「わ、わらひ、5番でひゅ!」
「ということは、フィーニアさん、ニーナさんに膝枕をしてもらってくださいな」
「こう?」
ニーナがぺたんと座り、ぽんぽんと膝を叩いた。
フィーニアは恥ずかしそうにしつつ、横になって膝枕をしてもらう。
「ん」
「ふわっ」
フィーニアが頭を乗せると、ニーナは三本の尻尾で彼女を覆う。
そして、優しく頭を撫でた。
「よし、よし」
「ふわわわ……あぅ、あぅ。ニーナままぁ……」
「すげえ……! フィーニアちゃんは中等部なのに、初等部のニーナちゃんにオギャらされたぞ」
「うん。アクスはなにを言っているのかな?」
ユウキがため息をこぼす。
――――――――――
「「「王様、だーれだ?」」」
「あたしよ!」
タニアがドヤ顔と共に言い放つ。
とても元気だ。
「ふっふっふ。どんな命令にしましょうか?」
「やばいのだ、脳筋が命令するぞ」
「脳筋、やばいっす」
「脳筋だね」
「うっさいわね!? 命令内容、数ランクアップさせるわよ!?」
今のルナ達が悪い。
「そうね、じゃあ……1番と8番がハグ」
「「「おぉ!?」」」
わりと過激な命令になったけれど……
ギリギリ、セーフか?
「1番は……僕だね」
「げ!? ってことは、俺とユウキがハグするのかよ!?」
アクスが悲鳴に近い声をあげた。
まあ、アクスにとっては嬉しくない展開だろう。
「ほら、王様の命令は絶対よ。さっさとハグしなさい。そうね……1分でいいわ」
「仕方ない、逆らえないからね。ほら、アクス」
「なんでユウキは抵抗がほとんどないんだよ……くそ、これでいいか」
ユウキとアクスがハグをした。
「「おぉっ!?」」
ソラとルナが目を輝かせた。
いや。
なんで、そこでワクワクするんだ?
「はい、1分経ったわよ」
「ふぅ、やっと終わったぜ」
「ちょっと名残惜しいね」
「えっ」
「「おぉ!!!」」
ソラとルナが、さらに目をキラキラさせた。