117話 私立ビーストテイマー学園・その13
季節は春。
新しい学期が始まり、そこそこの時間が経った。
知り合いから友達へ。
クラスの中で新しい人間関係が構築されていく。
俺とアクスとユウキ。
そこにカナデがプラスされて、いつもこの四人で過ごすことが多くなる。
「そういや、そろそろプール開きだよな」
とてもわくわくした様子で、アクスがそんなことを言う。
「にゃん? まだ四月だよ?」
「うちは屋内プールで、年中入れるように調整されているんだ。水泳っていい運動になるからな」
「アル学園長の趣味、っていう噂もあるけどね。あはは」
ユウキが冗談めかして言う。
さすがに趣味はないだろう。
「そういえば、ここに入る時、水着を買わされていたっけ」
「季節毎にプールの掃除が業者で行われるから、今は休みだけど……そろそろその掃除も終わるから、プールの授業が始まると思うぞ」
「楽しみ!」
「遊びじゃないんだけどな」
とはいえ、カナデの気持ちはわかるつもりだ。
ただ泳ぐだけだとしても、プールっていうのは楽しいものだ。
まあ、ガチの水泳部あたりになると厳しい、っていう感想が出てくるけど。
普通に授業程度なら、そこまでの問題はない。
「くっ、ふふふ……プール。プールといえば水着。学園指定だとしても、女子が水着になる! あぁ、なんて素晴らしい……この世界に天国はあったんだな! 泣けるぜ、くぅううう!!!」
「……ねえ。アクスを殴ってもいいかな?」
「……ノーコメント」
アクス、嬉しいのはわかるけど、もうちょっと色々と抑えてくれ。
――――――――――
そして、水泳の授業がやってきた。
「おぉ!」
プールサイドに集合して、アクスが歓声をあげた。
その視線の行き先は、もちろんというか女子だ。
「にゃー、なんか尻尾が変な感じ」
紺色のスクール水着を着たカナデは、なんとも微妙な顔をしていた。
尻尾の収まりが悪いのかもしれない。
彼女用に特別に作られたものらしいが、今まで着ておらず、調整を怠ったせいだろう。
「ま、たまにはこういうのも悪くないわね」
他のクラスのタニアもいた。
プールは一つだけなので、水泳は他クラスと合同で行うことが多い。
彼女は男子の視線など気にせず、実に堂々としていた。
スタイルは抜群なので、それでさらに視線を集めてしまう。
「はい、みなさん。こちらに集合です」
「早くしないとダメだよー」
水泳……というか、体育担当のスズ先生とミルア先生が俺達を呼ぶ。
二人もスクール水着姿だ。
ただ、二人は容姿が幼いというか、下手をしたら俺達よりも下に見えるわけで……
ちょっと犯罪臭がする。
「はい、まずは準備運動です。しっかりしないとダメですからね?」
「ちゃんとやらない子は私がおしおきだよー!」
「ミルア先生のおしおき……されてえな」
「アクス、それはちょっと……」
ユウキがちょっと引いていた。
とにかくも、準備運動。
体の各部を伸ばしたりして、これから運動をするぞ、と体に教える。
「じゃあ、まずはプールに入って、向こうまで歩いてくださいね?」
「ただ歩くだけ、なんてバカにしたらダメだよ? 水の中で歩くのって、けっこう大変なんだからね」
「あ、水をかけて体を慣らすのを忘れないようにしてくださいね」
プールに入ると、ひんやりとした感覚に包まれる。
温度は調整しているとはいえ、久しぶりのプールなので冷たく感じるのかもしれない。
「にゃにゃにゃ!?」
カナデは尻尾がぴーんと立っていた。
「大丈夫か?」
「うん、平気平気。心配してくれてありがとうね」
「とりあえず、行こうか」
水の中を歩いて……
「へぶっ!?」
隣のレーンのカナデがいきなり水の中に消えた。
えっと……
「カナデ!?」
見ると、ぶくぶくと沈んでいる。
足でも攣った?
慌てて彼女を抱き上げた。
「大丈夫か!?」
「ぷはーっ……し、死ぬかと思ったよ。ありがとう、レイン」
「いいんだけど……なにがあったんだ? 足でも攣った?」
「ううん。私、ほら。猫だから、水が苦手で……」
え? そういう理由?
というか、水が苦手だと、歩くこともできないのか?
「うーん、カナデちゃんは、水の中になると途端にへっぽこになりますねえ」
「うぐっ……お、お母さん、余計なことは言わないで!」
そういえば、スズ先生とカナデは親子らしい。
道理で似ていると思った。
「カナデちゃんは、まずは練習が必要ですね。でも、私達は他の生徒を見ないとですから……レインさん、カナデちゃんを見てくれませんか?」
「え、俺?」
「一番、適任のような気がするので」
「えっと……わかりました。俺で良ければ」
友達が困っているんだ。
なら、全力でがんばりたいと思う。
「えへへー、よろしくね、レイン」
カナデはにっこりと笑い、水の中で尻尾をゆらゆらと揺らすのだった。