116話 私立ビーストテイマー学園・その12
「……こんなところでなにをしているんだい?」
「あら。あなたに答える義務がありまして?」
「僕は生徒会長だ」
「確かにあなたは生徒会長ですが、いちいち、わたくし達一生徒の行動を報告する義務なんてありませんわ」
「くっ……!」
イリスの正論にアリオスがたじろいだ。
それでも、ここで退いてたまるものかと睨みつけてくる。
「生意気な……この僕を誰だと思っている!?」
「誰、ねえ……動物園のおさるさんのボスでしょうか?」
「なっ」
「生徒会長というだけで偉くなったつもりになって、私利私欲で権力を使って……とてもではありませんが、あなたのような方を敬う気になれませんわ。それなら、まだ、ミジンコを様付けで呼んだ方がマシですわね」
「こいつ、嫌な匂い! がるるるっ」
「つまらない男」
「なっ、なっ……」
女性陣にとんでもなく酷評されて、アリオスは怒りに震えた。
生徒会長である自分は、学園で一番の存在だ。
誰も逆らうことはできない。
教師でさえ、自由に口を挟んでくることはできない。
それなのに、この女達ときたら……
「ふざけるな!」
ついにキレたアリオスは、叫びつつ拳を振り上げた。
イリス達は余裕の態度でそれを迎え撃とうとするが……
「やめろ」
レインが割って入り、アリオスの腕を掴む。
「なっ……レイン、貴様!? 離せ!」
「こんなことをしようとして、離せるわけないだろう。なにをしているんだ?」
「うるさいっ、貴様には関係ない!」
「関係ないわけあるか。こんなこと……」
「うあっ!?」
アリオスの腕を捻る。
「見逃せるか!」
そして、軽く足を払い、突き飛ばす。
簡単な護身術だ。
相手を怯ませて距離を取ることができる。
ただ……
そんなものを初めて食らうアリオスは、ひどく動揺した。
驚いた。
足をもつれさせて、体勢を崩して、よろけて……
ゴンッ!
尻もちをついてしまう。
その弾みで、ちょうど上にあったドリンクサーバーが誤作動を起こして、アリオスの頭の上にジュースが注がれた。
さらに近くにいた人が驚いて、手に持っていた熱々のコーヒーを落としてしまう。
「!?」
冷たさと熱さ、両方を同時に食らい、アリオスは声にならない悲鳴をあげた。
さらに、隣のソフトクリーム機も誤作動を起こして、アリオスの上にたっぷりのクリームを注いで……
トドメとばかりに本棚が倒れてきて、アリオスを直撃する。
「えっと……」
レインは困惑した。
こんなコントのようなこと、本当に起きるのだろうか?
どれだけ運が悪いんだ?
とはいえ、自業自得なので気にしない。
「おー、ソフトクリームがいっぱい」
「ダメ。ばっちいから、食べたらダメ」
瞳を輝かせるリファをサクラが止めていた。
そして、イリスはというと……
「ふふ、とてもおもしろい動画とれましたわ♪」
晴れやかな笑顔で携帯をタップしていた。
動画の加工・編集を行っているようだ。
「さっそく投稿ですわ♪」
――――――――――
……その後、イリスの流した動画は学園を中心にバズった。
誰もがアリオスの無様な姿を見て。
笑い、呆れ、失笑して。
アリオスの名声は地に落ちたというが、それはまた別の話。