115話 私立ビーストテイマー学園・その11
「いらっしゃいませ」
今日も飼育部カフェの営業を続けていた。
あれから人気は上がり続けて……
さらに、たくさんの署名をもらうことができた。
たぶん、廃部を撤回させるには十分な量が集まったと思う。
「じゃ、後はうちにまかせとき」
ティナ先生は署名を手に、笑顔でぐっとポーズを決めた。
この後、直接、生徒会にかけあってくれるらしい。
教師が生徒会の自治権に干渉することになるため、普通はそんなことは行われないのだけど……
今回は生徒会の暴走が目に余るため、直接交渉に挑むことになったらしい。
ティナ先生なら、きっとうまくやってくれるはずだ。
なんだかんだ、頼もしい先生だからな。
残った俺達は……
「レインさん、大変です! もうオレンジジュースの在庫がありません」
「レイン、アクスのような客は蹴り飛ばしてもいいのよね?」
「オレンジジュースは、今、カナデに取りにもらっているから、ちょっとまってくれ。セルは、間違っても蹴り飛ばさないように!」
飼育部カフェは今日も大盛況だ。
署名が集まったとはいえ、すぐにたたむのはどうかと思い、営業を続けているのだけど……
慌ただしい時間が続いていた。
でも、これはこれで楽しいのかもしれないな。
みんなと一緒に一つのことをがんばる。
とても学生らしくて、青春、って感じがするじゃないか。
――――――――――
「それじゃあ……この一週間、ありがとう。みんなのおかげで飼育部は存続することができたし、カフェも大盛況だった。感謝してもしきれない。って……堅苦しい挨拶はここまでにして、今日はたくさん楽しんでくれ。おつかれさま!」
「「「おつかれさまー!!!」」」
あれから1週間。
飼育部カフェは、当初の予定を超えて営業を続けて、大盛況のうちに終わった。
今日は、その打ち上げで駅前のカラオケ店にやってきた。
フリータイムのフリードリンク。
注文も自由だ。
それくらいの売上はあったから、なにも問題はない。
残った分は動物達の餌代などに回させてもらうつもりだ。
「一番手は我なのだ! 『プリティフラワー!』、我の歌を聞くのだー!」
ルナがマイクを持ち、日曜朝、女児向けの主題歌を歌う。
中等部なのに……と思うかもしれないが、妙に似合っていて、しかもうまい。
続けて、カナデが流行りのポップを。
ニーナが童謡を歌い、ほっこりして。
ライハが演歌を歌い、場を渋くする。
「では、続けてソラが……」
「我が姉よ! 色々と注文できるらしいぞ、ほら! ほら!?」
「そうですか? では……」
「ふぅ」
たまに、ルナがファインプレーを見せていた。
そんな感じで、多少のトラブルはありつつも、楽しい時間が続く。
「……」
こんなにも楽しい時間は、いつ以来だろう?
思い出すくらい昔のような気がした。
なんていうか……
カナデが転校してきてから、色々なことが変わったな。
たくさんの人と知り合い。
部員がたくさん増えて。
こうして、みんなで一緒に遊ぶくらい仲良くなった。
うん。
この絆を大事にしていきたい。
大げさかもしれないけど、でも、そう思うくらいに大事に思っていた。
「ちょっと失礼しますわ」
ふと、イリスが席を立つ。
たぶん、トイレだろう。
でも、そんなことをあえて尋ねることはない。
「イリス、どこ行く? トイレか? トイレか?」
「サクラさん、連呼しないでくださいませ!」
「ぼくも行くぞ!」
「同じく」
サクラとリファも席を立つ。
女子って、なぜか一緒にトイレに行くことが多いよな。
――――――――――
「ふぅ、すっきり!」
「サクラさん、あまりそういうことは言わない方がよろしいですわ」
「なんで?」
「なんで?」
「リファさんまで……やれやれ、女子力というか、それ以前の問題の方が多いですわね」
イリスはため息をこぼしつつ、女子トイレを後にする。
そのまま部屋に戻ろうとするが……
「君達は……」
イリス達を見て、声をかける男がいた。
その男は……アリオスだった。