109話 私立ビーストテイマー学園・その6
「きゃー♪」
食堂の入り口の方から悲鳴が聞こえてきた。
いや。
悲鳴といっても黄色い悲鳴だ。
なにか大変な事件が起きた、というわけじゃないだろう。
それでも気になり、そちらを見る。
「アリオス先輩、一緒にごはんを食べませんか!?」
「こちら、席空いていますよ? ぜひぜひ!」
「はは、仕方ないな。君達のような可愛い子に誘われたら、僕は絶対に勝てないじゃないか。でも、いいのかい? 僕が一緒になると、目立つことになってしまうよ」
「むしろ自慢になります!」
「ねー」
たくさんの女子生徒に囲まれて、さわやかな笑顔を浮かべている上級生の男。
アリオス・オーランド。
学園で知らない者はいないというほどの有名人で、芸能人並の人気がある。
「にゃに、あいつ?」
「見たことない顔ね……」
転校生のカナデはともかく、タニアも知らないのか。
「あの人は、アリオス先輩だよ。あんな感じで、女子からの人気が高いんだ」
「ふーん……あたしから見たら、なんかぱっとしないけど」
「私も」
二人は辛口評価だ。
でも、実際、アリオスの人気は高い。
芸能人並の容姿で、誰もが名前を知っているようなグループの息子。
色々な意味で話題を集めている。
ふと、アリオスが俺を見た。
ニヤリと笑い、こちらにやってくる。
「やあ、レイン。久しぶりだね、元気にしていたかい?」
「ええ……まあ」
「レイン、知り合いなの?」
「……昔、同じ生徒会に所属していたんだ」
少し前の話だ。
俺とアリオスは生徒会に所属していて、学園の自治に励んでいた。
ただ……
アリオスは強引な方法で改革案をゴリ押しして。
ただの気まぐれで、俺は窃盗事件の犯人にされて。
そして、追放された。
その後、容疑は晴れて、お咎めはなしになったものの……
生徒会に復帰することはない。
ただ、そんな暗い話を今しても仕方ない。
詳細は濁しておいた。
「こんなところで奇遇だね。おや? 一人かと思ったら、友達がいたんだね。僕は、アリオス・オーランドだ。可憐な君達は?」
「「……」」
カナデとタニアは応えない。
私達不機嫌です、という顔をして、睨みつけてさえいた。
アリオスもまた、不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「ふんっ。レインと一緒にいるということは、所詮、その程度の女ということか。見た目だけで、中身はどうしようもなさそうだね。まあ、その方がレインにはお似合いということか」
「お前……!」
「まあ、今のキミにはちょうどいいんじゃないかな? 今は、飼育部だっけ? はは、キミにふさわしい素晴らしい部活だ。そのままがんばりなよ」
楽しそうに笑い。
そして、いくらかの女子生徒を連れて食堂の奥へ移動した。
「まったく……」
いつもあんな態度だから困る。
最初は怒りを覚えていたものの、最近は慣れて、呆れるようになっていた。
ただ、それは俺だけで……
「フシャー!!!」
「グルルルッ……!」
カナデは尻尾を逆立てて、タニアはチラチラと口から炎をこぼしていた。
まずい。
みんなの憩いの場である食堂が、阿鼻叫喚の戦場と化してしまう。
「えっと……そ、そうだ! 友達になった記念というか、今日は俺が奢るよ。なにか食べたいものはないか?」
「フルーツパフェ!」
「パンケーキ!」
カナデとタニアは間髪入れず、目をキラキラさせて答えた。
よかった。
食欲が怒りを凌駕したみたいだ。
苦笑しつつ、二人の注文を取り、再び席に戻る。
「「いただきまーす!」」
二人はおいしそうにパフェとケーキを食べて……
「「……」」
ふと、思い出した様子でこちらを見る。
「どうしたんだ?」
「レインは食べないの?」
「もしかして、あたし達に奢ったせいでお金がない?」
「いや、そんなことはないけど」
特に理由はない。
でも、二人はそう捉えなかったらしく、じっと考える。
ややあって、カナデとタニアはパフェとパンケーキ、それぞれ一口サイズをこちらに差し出してきた。
「はい、どうぞ。幸せのおすそ分けだよ♪」
「まあ? ホントはあたし一人で食べてもいいんだけど? かわいそうだから、一口だけ分けてあげる。他意はないんだからね!?」
「あ、ありがとう」
アリオスのことは……どうでもいいか。
それよりも、こうして二人と楽しい時間を過ごしたい。
うん。
がんばろう。